テフラについても書いたし、火山について基本的なことは網羅できただろうと思っています。あとはテフラに含まれている物をざっくり解説していこうという感じなのですが、先にクソマイナーな火山からの噴出物である「ペレーの毛(Pele's hair)」について書かせていただきたいと思います。なぜなら忘れがちだからです。
結論
- シャバシャバマグマが飛び散って固まる「毛」
- ハワイのものが有名
毛。
「ペレーの毛」というおしゃれな名前を聞いて、どういった気持ちでこのページのリンクを踏まれたでしょうか。ファッション関係の記事だと思ってクリックされていないことを祈っていますが、どうでしょうか。
ペレーの毛というのは火山噴出物です。火山砕屑物の上位概念で、要するに火山から噴き出してくるものの総称ですね。火山噴出物と聞くと、溶岩のようにドロドロカチカチしているものや、火山灰などの固体固体したものを想像しがちですが、ペレーの毛はどんなものでしょう。百聞は一見に如かずということでペレーの毛が堆積した画像を見てみます。
どうでしょうか。先程触れた火山噴出物のイメージとは大きく異なるのではないでしょうか。こういったふさふさした「ペレーの毛」はどのようにして作り出されるのか、気になりませんか?
…気になるという前提で話を進めさせていただきます。
冷えーる、伸びーる、ストップ
ペレーの毛は、繰り返しになりますが火山噴出物です。つまり火山からドーンと出てきたもの由来というわけです。とはいえ皆さんの「火山噴出物」に対するイメージに無い通り(?)、ほとんどの火山における火山活動では盛んに生成され、多くの人の目に触れるようなものではありません。(とはいえ後述のように全く生成されないということではないのですが。)
有名なものとしてハワイにおける例があります。上に挙げさせていただいた画像もハワイのものですし、そもそも「ペレーの毛」の「ペレー(Pele)」はハワイの神様ですしね。マウナケアから噴き出すものが良く知られています。
このようなペレーの毛は火山噴出物の中でもマグマから生まれるものです。マグマが溶岩として噴き出してできるものは溶岩流だけではありません。マグマだって液体として噴き出たら水のように飛び散ってしまうことはあります。そんな飛び散ったものというのは空気中で急速に冷えてしまうのですが、その時に繊維状に冷えることがあります。それがある程度成長したものが「ペレーの毛」です。見た目の通り細長いガラス質の繊維でとても軽く、風に吹き飛ばされやすいという性質があります。
日本での生成例
先程ハワイのものを例示させていただいた通り、有名なものはハワイやコロンビアのシャバシャバしたマグマから噴出する例が多いので、日本ではあまりペレーの毛は見られないものだと思いがちです。
しかし「災害は忘れた頃にやってくる」でお馴染みの寺田寅彦さんは、随筆にこのようなことを書かれています。
地変に関係のある怪異では空中から毛の降る現象がある。 これについては古来記録が少なくない。 これは多くの場合にたぶん「火山毛」すなわち「ペレ女神の髪の毛」と称するものに相違ない。 江戸でも慶長寛永寛政文政のころの記録がある。 耽奇漫録によると文政七年の秋降ったものは、長さの長いのは一尺七寸もあったとある。
寺田寅彦「化け物の進化」、寺田寅彦随筆集第二巻「科学について」所収。
このような随筆はこのサイトのように記憶や知識が曖昧なまま書かれてしまっている例が散見され、絶妙に間違っていることや見当外れなことが一部分に書かれてしまうことがあります。例えば桐生悠々さんの「関東防空大演習を嗤う(1933年)」には技術的に明らかに無理なことが多数記されています。しかしながら「敵機を関東の空に、帝都の空に、迎え撃つということは、我軍の敗北そのものである。この危険以前に於て、我機は、途中これを迎え撃って、これを射落すか、またはこれを撃退しなければならない。(==空を守るためには積極的な防衛をしなければならない)」というところに大きな間違いを見つけることは難しいでしょう。
しかしながらこの記録のように「日本に(現代的な用語を使えば)ペレーの毛が降った」という記録は他にもあり、小泉 (2012)はこれをいい感じにまとめているものとなっています。もちろん、記録全部が当然ながら信用できるものではありません。「火山から降ってきた毛」とされるものがどう見ても何かのしっぽみたいな絵だなあと思ったら、残っている現物が本当に馬の毛と推察されていたりもします。とはいえ、佐々木、勝井、熊野 (1981)でも触れられている通り、シャバシャバマグマだけからペレーの毛が生まれることは無いことが示されているので、その点からも「ハワイだけで出来る」と早合点しないようにしていただければ嬉しいなと思います。
参考文献
- 小泉潔「江戸(東京)にペレーの毛が降った?」『地学教育と科学運動』第68巻、2012年、67-77ページ、NAID: 110009490098、DOI: 10.15080/chitoka.68.0_67。
- 佐々木龍男、勝井義雄、熊野純男「軽石噴火で生じた珪長質ペレーの毛」『火山.第2集』第26巻第2号、1981年、113-116ページ、NAID: 110002991528、DOI: 10.18940/kazanc.26.2_113。
最後に
前回のざっくりわかる火山シリーズ: クソデカ噴火で生まれる広域テフラ
完全に忘れそうなので先に書きましたが、絶対順番はこうするべきじゃない気がする。あと載せている画像はUSGSの「Volcano Watch — Amber waves of … Pele's hair?」というページから転載させていただきました。パブリックドメインで提供されていたので特に問題はないでしょう。多分。