門外漢ウェゲナーおじさんは「大陸は動いた」と語る。

このタイトルで当時の学会に受け入れられなかった理由を感じ取ってほしい / 2022-07-08T00:00:00.000Z

現代に生きる大半の人は、前回の記事で触れた「プレートテクトニクス」について多かれ少なかれ知っているとは思います。しかしこの考え方はそれなりに新しいもので、100年くらい前にはほとんど信じられていませんでした。

それではなぜ現在は早くて中学生で学ぶほど広まったのでしょうか。歴史を遡っていきたいと思います。ちなみにこの歴史を遡る過程はYork (1990)を参考にしたので、もうちょっとちゃんと読みたい方はそちらを読まれることをおすすめします。

結論

  1. 大陸棚を含めるとパズルみたいにしか見えない
  2. 二つの大陸の両側に同じ化石がある
  3. これは元々一緒だったのでは?(ただし動力は不明)

大陸と海洋の起源

ウェゲナーおじさん、フルネームではアルフレート・ロータル・ウェーゲナー(de: Alfred Lothar Wegener)というドイツ人気象学者(現代の感覚とはちょっと異なるけど)がいました。ちなみに奥さんのお父さんは「ケッペンの気候区分」でおなじみのウラジミール・ペーター・ケッペンさんです。

さてこのウェゲナーおじさんは1912年1月6日にフランクフルトで「大陸は動いている説」を発表した後、1915年に「大陸と海洋の起源」という本の第1版を出しました。この時代、基本的には「陸橋説」という、

  • 大陸は動かない
  • 今は沈んでしまった「橋」で生物は他の大陸へと移った

ことを主張する説が有力でした。現代の視点から見るとかなり突飛であるとしか言えない説ですが、当時としては泳げない動物がなぜ他の大陸に住んでいるのかという疑問を解決でき、それなりの説得力がありました。

そのためウェゲナーおじさんの「大陸は動いている説」はほとんど受け入れられませんでした。しかしこれは決定的に論理が破綻しているとか、そういったものではありません。ではウェゲナーおじさんは何をもって大陸移動説を唱えたのかを見ていきましょう。

大陸棚パズル

南アメリカとアフリカ大陸の海岸線が似ている

教科書でよくお馴染みの図が出てきたと思います。これは (私が海底地図をトレースするのが面倒だったため) 海抜0mの大まかな地図ですが、彼は当時分かっていた範囲での大陸棚を含めた形でこのパズルが成り立つことを示しました。大陸棚を含めることで、よりぴったりになったそうです。

ちなみにこのような考え方はウェゲナーおじさん以前にも出ており、1858年にアントニオ・スナイダー=ペレグリニさんが植物化石の移動についての理由付けとしてこんな図を著書「La Création et ses mystères dévoilés」で使っていたりします。こういったウェゲナーおじさんの影に隠れてしまっている人々については、明々後日の記事で詳細に扱おうかと思います。

しかしウェゲナーおじさんはこの単なるパズル的なことのみではなく、当時彼が知り得た科学的知見からこのパズルをより強くしていきました。例えば南アフリカとブラジルに同じ走向を持つ片麻岩が存在することや、アイソスタシーの研究から地殻が水平移動の可能性が出てきたことなどがあります。南アフリカの片麻岩については、ウェゲナーおじさんの説を初期から支持していたアレクサンダー・デュ・トワさんによって詳細に調べられました。

化石

ウェゲナーおじさんはこの他にも両大陸に残る化石から大陸移動説を補強しました。

メソザウルス化石分布

メソザウルスはペルム紀前期(2億4000万年くらい前)に生きていた爬虫類です。サウルス/ザウルス(saurus)というのは「トカゲ」の意味ですね。

そんなトカゲもどきは現在の南アフリカと南アメリカ大陸にまだがって生息していました。そのため、出てきたところを現在の地図にマッピングすると上記のような図(範囲についてはYork (1990)を参考にしたけど違う図もいっぱい出てくるので注意。取り敢えず両大陸にまたがっていることを理解していただければ。)になります。

両大陸に化石がまたがっていることを、ウェゲナーおじさんは「大陸が動いたから」で綺麗に説明できるとしました。一応これに対立する説として「メソザウルスは泳ぎが上手かったので大西洋を渡れた」という説もありましたが、そこまでの泳力があればもっと広い化石の分布が見られたはずです。

そしてプレートテクトニクスへ

ここまで読んできて、「大陸移動説とプレートテクトニクス、何が違うか分からない」と疑問に思っていらっしゃる方もいることでしょう。ウェゲナーおじさんの大陸移動説は答えを知っている私たちからするとかなり真実に近しいと感じるものです。

しかし所々おかしいところもあり、例えば「地殻は長期的にみると流体とみなせる」と提唱しています。またウェゲナーおじさんはそもそもの「大陸を動かす」を満足に説明できませんでした。そのため明日の記事で解説する海洋底拡大説が説得力を持つようになるまで、「地球収縮説」という別の説が学界の定説となっていました。

もうこの記事も終わりに差し掛かっているので簡単に説明すると、地球収縮説は「地球は生まれたときから冷え続けているだろうから、地球は小さくなり続けている」というものです。ちょっと劣化しているけれども膨らませられないという程ではない風船で試すといいですが、風船を膨らませて空気を抜くとしわしわになります。縮んでいくにつれて高くなった場所は山脈に、低くなった場所は海になったため、かつて繋がっていた場所も切れてしまったという説です。

この説はシンプルで合理的なように見えますが、山脈を形成する力がよっぽど収縮しないとできないことから現在では棄却されています。

他に注目するべき点としては、明日の記事にも続く「大陸」と「海洋」の軸が続いているという点です。あまりに当たり前すぎてスルーしがちですが、この時点では 「プレート」という概念はまだ出てきていません 。その辺に注目しながら読み進めていただければ幸いです。

参考文献

  • York, Dreak「新しい地球像 : 地球の創生からプレートテクトニクスまで」日本地学教育学会訳、三訂版、秀潤社、1990年、国立国会図書館書誌ID: 000002040308、NCID: BN04813662、ISBN: 4-879-62096-3。

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Writer

Osumi Akari