海洋底拡大説は名前の通りの説

検証!海の底はちょっとずつ広がっている説(検証は1960年代) / 2022-07-09T00:00:00.000Z

前回の記事ではウェゲナーおじさんが迫真の大陸移動説を唱えました。

しかし当時はどうやって大陸が移動したのかを満足に説明できなかったことから、積極的に支持はされませんでした。それではなぜプレートテクトニクスが説得力を持って受け入れられるようになったのか。前回の記事に続いて歴史を追っていこうと思います。

結論

  1. 海の底はちょっとずつ広がっているよ
  2. 海底の地磁気の位置がずれていることから分かったよ

答えから

我々は歴史を知っているので、海の底がどういうプロセスで広がっていくかを簡単に確認していきましょう。

海が広がるということは、当然新たな海底が作り出されているということを意味します。新たな海底というのは地球の中からやってきて、「海嶺」という場所という場所で地球の表面へと出てきます。

そこで生まれた海底は後輩の海底に押されて、年間数cmで海の底をどんぶらこ。海中で様々なものが降り積もったら、やがては地球の中へと再び潜る「海溝」にたどり着き、その周りでひっちゃかめっちゃかを起こしながら深部へと帰っていきます。

この前提を元に「海洋底拡大説」をざっくりと眺めていきましょう。とはいえ前提条件が多すぎるのでまだ海洋底拡大説にたどり着きそうにはないですが…。

噴火するとその時の地磁気が記録される

地球には「地磁気」というものが存在します。これは地球の「核」について扱った記事で軽く触れていますが、N極とS極の場所(それぞれ磁北極/磁南極)は動きますし、ぐるんと逆になってしまうこともあります。もちろん3日に1回地磁気が生まれてから変わってしまい続けている…ほどは忙しくないのですが、地球の歴史という長い時間軸で見るとまあそれなりに変化しています。

さて、特に玄武岩質の噴火が発生した際、磁鉄鉱が含まれていることがあります。さすがに磁石を1000度超の空間に放り込んだことのある人はそうそういないとは思いますが、実は高温の空間に磁石を放り込む強磁性(普通の棒磁石みたいな状態)が失われます。強磁性が失われる/付く、物体によって異なる温度を「キュリー温度」といい、これを下回ると強磁性がその時の環境に合わせてその物体につきます。

地球の中から出てきたものは当然クソ熱いので、キュリー温度を余裕で上回っていることが多いのですが、すぐに海水や大気によって冷まされ、出てきたその時の地磁気の向きが記録されます。これを「残留磁気」、特に「熱残留磁気」といいます。

地磁気の変化を突き合わせる

このようにして形成された地磁気は地球上に大量にあるわけで、この観測は1900年代から小規模に始められました。この結果を元に、どのような動きをしていたかについてまとめる作業が1950年代に主に行われました。すると、現在の極に至るまで大陸ごとに極が移動していることが明らかになりました(ここについて細かく書くと私の下手なお絵かきの量が増えちゃうので許して)。

この移動について詳しいことは専門家に聞いてください。あとYork (1990, p.145)の「磁気の日記を読むことが, ランカン, アーヴィング, クリアー, コリンソンのニューカースルグループによって初めて詳細に行われたとき(後略)」とありますが、原著が分からないので文言がものすごく曖昧になってしまいました。つらみ。

まあ余談は置いておいて、この観測事実から大陸移動説が説得力をかなり持つようになってきました。

海嶺は海底を生み出しているんじゃないか説

大陸移動説が盛り上がってきている中、1960年にプリンストン大学のハリー・ハモンド・ヘス(Harry Hammond Hess)さんや、アメリカのロバート・シンクレア・ディーツ(Robert Sinclair Dietz)さんが、海底が大きくなっている説を提唱しました。ここではヘスさんの理論を細かく見ていくことにしましょう。

1928年にアーサー・ホームズ(Arthur Holmes)さんは、「大陸は下から上がってきたマントルに分裂させられ、古い海底はマントルに飲み込まれていく」という説を発表しています。今日の観点からするとものすごく真に迫っていて、ウェゲナーおじさんと同じくらいすごいと個人的には思っています。

そんな説をヘスさんは1960年の視点で再検討し、この時点で明らかとなっていた

  • 海洋地殻は大陸地殻と比較して薄いこと(地震研究より)
  • 大西洋の中央にある巨大山脈(大西洋中央海嶺)は中央に深い割れ目がある

ということを加味しました。その結果、ヘスさんは以下のように海洋底拡大説を唱えました。

  1. 海底はベルトコンベヤーのようにグルグル回っている
  2. 海底は海嶺で地上に上がり、海溝で地下へ沈む

一応2番の最後「海底は海溝で地下へ沈む」の部分にはちょっとした議論があり、海溝の端っこで旧海底が地上へと積もっていくのか、それとも地下へと潜っていくのかというものはありました。しかし、この「再吸収」の考え方は非常に合理的であったため、すぐに受け入れられました。

Joint Oceanographic Institutions Deep Earth Sampling Program

このヘスさんの理論によれば、古くなった海底は「再吸収」されてしまうため、海底には古い岩石がないということが考えられます。これを実際に海底掘削船でサンプルをとってきて確かめようというのが、「JODIES計画」で、1968年までに実行されました。

これは太平洋の海底を掘削するもので、結果として海嶺から海溝に向けてどんどん古い岩石で構成されていることが明らかになり、最も古いものでも約2億年前生まれであるということが分かりました。

同じ模様が両方に

また、地磁気の変化が海底に記録されていることから、その記録を高度な磁気計で読み取ることにより、詳細な変化を読み取ることが可能になります。

同じ海嶺から二方向に同じ地磁気が記録された海底が生み出されていくので、同じ地磁気の「模様」が、海嶺の両方に見られるようになります。ちなみに海底の年代測定から生み出されていく速度がほぼ一定であることが分かったため、この磁気異常の模様の幅はそのまま過去の地磁気の向きを示すということが示されています。

トランスフォーム断層

ここまでの地磁気観測の結果は大陸移動説とかなり符合するもので、さらにトランスフォーム断層の詳細な解析が大陸移動説をさらに補強することになりました。ここでは細かく触れませんが、「トランスフォーム断層」はカリフォルニアなどに存在するR-R型(Ridge-Ridge、要するに海嶺-海嶺型)が有名なもので、プレート境界で主にみられるものです。

これの動きと海洋底の拡大がかなりマッチしたことにより、海洋底の拡大がさらに補強されました。

そして、プレートテクトニクス。

前回も書きましたが、大陸移動説・海洋底拡大説などを通して「プレート」という概念が未だに出てきていません。お待たせしましたようやく出てきます。

とはいえここまでの議論を眺めてくれば、海底は海嶺で生まれ海溝で地下へと沈む「一枚の板」、それが何枚もあり、動きの向きも速度もバラバラだからぶつかってしまう。というのは自然な考え方だと思います。

これをちゃんとしたものにまとめたのが、ケンブリッジ大学のダン・ペーター・マッケンジー(Dan Peter McKenzie)さんやウィリアム・ジェイソン・モーガン(William Jason Morgan)さん、そしてフランスのグザヴィエ・ル・ピション(Xavier Le Pichon)さんなどです。詳しいことはプレートテクトニクスそのものについて書いた記事をご覧ください。

参考文献

  • York, Dreak「新しい地球像 : 地球の創生からプレートテクトニクスまで」日本地学教育学会訳、三訂版、秀潤社、1990年、国立国会図書館書誌ID: 000002040308、NCID: BN04813662、ISBN: 4-879-62096-3。

関連リンク

最後に

科学史は個人的に好きなので、軽くしようと思いつつも長文を深夜テンションで書いてしまいました。絵心がないのにお絵描きを始めたのは深夜テンションの最たるものでしょう。しかしセクションによって濃度の差が激しいものになってしまった点については反省しているので、そのうちどうにかしたいと思っています。

次の次くらいでプレートテクトニクスの歴史については終わる予定なので、そこまでお付き合いいただければ幸いです。

次回のざっくりわかる固体地球シリーズ: 大陸は動いている説を提唱したウェゲナー以前の人々

Writer

Osumi Akari