火山砕屑物として一番有名なものは、やはり「火山灰」でしょう。鹿児島県民のみならず、全国的に知れ渡っている単語だと思っています。
しかしながら火山灰そのものについてはあまり詳しく説明されてこなかったと勝手に思っているので、今回は火山灰そのものについてものすごくざっくりと説明していきたいと思います。
結論
- 噴火の時に出る細かいテフラの1つ
- 風に乗って流れる
One of tephra
…とまあ壮大な前文を書いてみたのですが正直あまり書くことはありません。なぜなら火山灰とは何ぞやを定義しようとすると、火山砕屑物の記事に書かせていただいた通り「粒径2mm以下の火山砕屑物」となってしまいます。とはいえ記事を作ってしまった上、この記事を9月1日の夜に書いていることから今更テーマを変える余裕がないので、どうにかして一つの記事としてまとめていこうと善処しようかと思います。
粒径2mm以下の火山砕屑物、ということは定義的に見れば非常に小さなものの総称ということが出来ます。当たり前と言えば当たり前なのですが、このことは 「火山灰」と一言にいっても内実が異なる ことがあり得る、ということを示しています。代表的な火山灰の中身を見ていきましょう。
- 火口の上に載っていた山の残骸
- マグマ生まれのガラスチックなやつ
壮大なことを言った割に有名なものが2個しかありませんでした。ちょっと悲しいですね。
まず初めに「火口の上に載っていた山の残骸」についてですが、これは水蒸気噴火について説明した記事で遠回しに触れたものですね。火山砕屑物というのは「火山活動による砕屑物」なので、マグマそのもの生まれではなくても火山灰として降ってくる場合があります。
次に「マグマ生まれのガラスチックなやつ」についてです。これは「火山灰」と聞いた時に真っ先に出てくるようなものでしょう。いわゆる「火山ガラス」と呼ばれるもので、かつ形状が火山灰の定義に入ったものについて触れていこうかと思います。
こんなめんどくさい定義をしたのにはもちろん理由があり、火山ガラスというのは非常に広い物質的な形態(噴火時の特殊な温度/圧力条件で形成された結晶構造を持つガラス状物質の総称)を表すからです。そのため単純に「火山ガラス」と触れた場合、ペレーの涙なども含まれることになってしまいます。
このような「マグマ生まれのガラスチックな」火山灰は、そのガラスチックなものの中身がものによって大きく異なります。そのため広域テフラとして降り注いだものの判別として、そのような特徴的な中身を区別することが行わることもあります。
流れる火山灰
このような火山灰は様々な形式のある噴火によって地表へと降り注ぐのですが、その広がり方には上空を吹く風が大きく影響します。基本的に日本くらいの緯度ですと偏西風の影響で東に寄ることが多いです。
とはいえハザードマップなどで降灰予想が示されていることがありますが、これはあくまでよく吹く風の向きに合わせて作られていることが多いです。ハザードマップの隅に書かれていることも多いのですが、降灰範囲に含まれていないからといって火山灰がそこに来ることは無い、ということは無いという当たり前のことを一応書いていこうと思います。
ローム
「ローム層(loam)」という言葉を耳にすることがあるかもしれません。有名なものとしては富士山や浅間山などの火山灰を起源とする関東ローム層ですね。ある程度の粒径を持つ火山灰が堆積した後に風化を受けたため粘土質になっている地層です。
よくこの(火山生まれの)ローム層の起源を「噴火によって生まれた火山灰が積もってできた」と説明されることがあります。しかしながらこのような説明は100%正しいとはいえません。なぜならロームというのは直接火山灰が積もったものを指さないからです。
火山灰といえば、噴火して空中にバラまかれて地表へと降ってくるというイメージが強いでしょう。もちろんこれは間違っていません。しかしながらいくら空中十数kmまで届くといっても、ある程度の大きさがあればすぐに地表へとたどり着いてしまうため、実は火山灰は風そのものだけではあまり広がらない傾向にあります。
しかしながら風が吹いているのは上空だけではありません。地上にだって風は吹いています。そのため二次的に一度堆積した火山灰が別の場所へと移っていくことがあります。このようにして形成されたのがロームです。ちなみに日本語ですと、火山由来かそうじゃないかに関わらずロームのことを風成層といいます。こっちの方が分かりやすいですよね。
冬
核戦争が発生した際の惨事の想定例として有名なものに「核の冬」と呼ばれるものがあります。これの想定を簡単に示せば、核戦争中の核爆発によって「火口の上に載っていた山の残骸」ならぬ「人間生活の残骸」が空中へと吹き飛ばされることがあちこちで発生することにより、太陽光が遮られる(日傘効果)ためめちゃくちゃ寒い季節が続いてしまうというものです。現在では地球史を鑑みれば影響が微妙ということ(とはいえ危険なことは変わりない)が明らかになってはいますが、そのメッセージ性から最初の論文のシミュレーションが未だに用いられています。詳しい話はEoEの「核の冬」についての記事やリンク先のClimatic Consequences of Nuclear Conflict Nuclear Winter is Still a Dangerなどをご覧ください。
上の段落の文章で「地球史を鑑みれば」という文言を使わせていただきました。つまり自然で似たような出来事が発生した、それも先述の「核の冬」の想定を超える出来事が発生したということです。「核戦争中の核爆発によって『火口の上に載っていた山の残骸』ならぬ『人間生活の残骸』が空中へと吹き飛ばされること」が起こるなら、「火口の上に載っていた山の残骸」や「マグマ生まれのガラスチックなやつ」が大量に空中へと放たれること、すなわちものすごい規模の噴火も起きますよね。
その「ものすごい規模の噴火」というのは歴史上何回か発生していることがあります。私が眠くなってきたのであまり多くの事例は紹介しませんが、代表的なものとしては「夏のない年」とまで呼ばれた1816年の冷夏が挙げられます。これは1815年の4月にタンボラ山というインドネシアの火山がVEI-7という大規模な噴火を起こしたことが原因で発生した冷夏です。どれくらい大規模かということを示すことは極めて難しいことですが、火砕流の記事で触れさせていただいたヴェスヴィオ火山の噴火の数十倍の規模であったと言われています。
この規模の噴火は(人類による記録が残っているという意味で)史上最高レベルの噴火であったと言われています。そしてその分火山灰も大量にまき散らしています。30立方キロメートルの山体が吹き飛んだと言われており、少なくとも1万人の方が噴火によって直接亡くなられたと言われていますが、間接的に気候を変動させたことによって全世界に多大な影響を及ぼしています。あまりに多すぎるので抜粋するとこんな感じです。
- 6月にケベック州で大雪
- 8月にペンシルベニア州で河川凍結
- オート麦(馬の餌)の価格が一夏で7倍以上に
要するにクッソ寒くなったことによって産業のサイクルが壊されてしまったということです。
このような噴火によって発生する寒冷化を一言で説明するために生まれたのが「火山の冬」という概念です。これ以外にも歴史上何回か火山噴火に関係する気候変動は発生していると考えられています。
参考文献
- 別技篤彦「1815年のスンバワ島タンボラ火山の爆発について」『新地理』第18巻2号、1971年、4-26ページ、ISSN: 1884-7072、NAID: 130003703518、DOI: 10.5996/newgeo.18.2_4。
最後に
前回のざっくりわかる火山シリーズ: 涙型の「ペレーの涙」
ここ最近Twitterで流行った動画の元ネタを調べたり、鳥取県で議事録の作り方を学んだりしてばかりいました。これは記事ストックの減少が原因で、ざっくりわかる地球科学シリーズは調査コストが高いため、埋め合わせとして前記のような記事ばっかり流していました。自由研究をどうにかして大人っぽく見せかけるといった中身のない記事を出すようなカスのオピニオン的な記事はあまり要らないと思うのですが、こういった理由なので許してください。
というわけで火山灰の定義だけの予定だった記事を大幅に伸ばしてみました。これ、「火山の冬」の記事として別記事にした方がいい気がしていますがどうでしょうか。取り敢えず睡眠を摂取した後に検討したいと思います。おやすみなさい。