前々回の記事で「レンチンと圧力鍋」とざっくりと説明させていただいた変成作用についてですが、今回はその料理された対象である「変成岩」についてざっくりと説明していこうかなと思います。
結論
- どこで何がどれくらい変成されたかによって変わる
- 割と身の回りにあったりする
変成作用の2パターン
前々回の記事において触れた変成作用の2パターンをもう一度ここに挙げておこうかなと思います。当たり前と言えば当たり前なのですが、変成作用と変成岩は密接な関係があるので、変成岩を分類しようと思った時には変成作用について理解しておく必要があります。さて私は長々とした説明の結果、変成作用の有名な2パターンには以下のものがあるとしました。
- マグマが上がってきて、そこにあった岩石が 高温低圧で 温められる
- プレートの動きにドンブラコされて、岩石が 低温高圧で 温められる
この2つがどのような場所で行われているかを図で見てみましょう。
毎度のことながら画力は崩壊していますが、大まかな場所は確認できたと思います。まず初めにマグマによって温められる高温低圧型のものは比較的地表に近しい場所で、次にドンブラコされて圧力を受ける低温高圧型のものはプレートの沈み込んでいる場所の近くで変成作用がそこにある岩石へと行われています。
当然ながら変成作用と一口に言ってもこれら2つでは大きな違いがあります。また変成作用を受けたらどんな岩石でも「変成岩」という一つのものになるというわけではありません。変成作用を受ける前の岩石、料理でいうならば材料によって出来る岩石の特徴は様々なものとなります。
有名な変成岩
変成作用についてざっくりと触れたので、有名な変成岩についていくつか触れていこうかなと思います。
結晶質石灰岩
問題「ギリシャ語で『輝く石』という意味の語が英語名の由来となった、主に結晶質石灰岩のことを指す建材は何でしょう?」
もし私がクイズを作るとしたら大理石についてこんな感じの問題にします。つまり(?)大理石という言葉の多くは結晶質石灰岩のことを指します。
なぜこんな歯切れの悪いことを言わざるを得なくなっているかということなのですが、こういった石材になりうる岩石というのは往々にして、その岩石そのもののみならず「見た目が似ているもの」・「性質が似ているもの」もその岩石の名前で呼ばれていることがあるからです。そのため、一般に知られている「大理石」と一対一対応で「結晶質石灰岩」になるとは言い切れない面があることから、こんな感じの文章になっています。以下特に断りなく「大理石」という場合には「結晶質石灰岩」のことを指します。
というわけで皆さんは「大理石」という岩石をご存じでしょうか。大理石として知らなくとも、以下の写真の建築物は知っているでしょう。
ギリシャの首都アテネの丘に鎮座するパルテノン神殿です。神殿と言えばこれといったイメージで知られているかと思います。大理石の説明の流れで出したので薄々分かっているとは思いますが、このパルテノン神殿は大理石で作られています。画像はWikimedia Commonsに掲載されていたGuillaume PiolleさんのCC BY 3.0のものを使用させていただきました。
パルテノン神殿に限らず大理石は様々な建築物に用いられている美しい岩石です。このような岩石はどのようにして作られたのでしょうか。
大理石というものは石灰岩という石が基本的には高温低圧型の接触変成作用を受けたことによって作り出されます。石灰岩というものは炭酸カルシウムを主成分としている岩石で、定義からすれば炭酸カルシウムが集まれば生成されます。多くの場合はサンゴの死骸が堆積して形成されるもので、プレートの上でドンブラコされたのち付加体としてプレートのへりにべったりすることがあります。結晶質石灰岩(大理石)の定義としてはドンブラコされたものでも高温低圧型の接触変成を受けたものとなるので、この点は注意する必要がありません。
高温低圧型の変成、すなわちマグマの方から近づいてくる変成を受けることで、石灰岩の炭酸カルシウムが融け、また再度固まる(再結晶する)時に結晶構造が発達するということが起こります。このようにすることで美しい結晶質石灰岩が生まれるということです。
ホルンフェルス
大理石の説明で「接触変成」というワードが出てきました。これはどのようなものなのかざっくり見ていきましょう。
マグマに接触している変成なので、これまで説明してきた高温低圧型の変成とほぼ同じであるということを理解していただけたでしょうか。「…ホルンフェルスって何?」という疑問を持ってしまったあなた、非常に素直な読解力をお持ちだと思います。というわけで突然出てきた謎の単語「ホルンフェルス」について説明していこうかと思います。
ホルンフェルスというのはドイツ語で「角の石」という意味がある言葉です。意外に知られていないのですが、動物の角というのはそれなりに固いものです。つまりホルンフェルスというものの意味合いとしてはちょっと固めの石といった意味です。ちなみに楽器のホルンは角笛という意味があるので、それとセットで覚えていただいてもいいと思います。このホルンフェルスのゆるい定義としては「強い方向性のある構造の無い変成岩」というものなので、なんで固めの石という語が当てられているのか微妙に分からないとも思っています。
さて上の定義「強い方向性のある構造の無い変成岩」から分かる通り、元の石が何かを用語としては問いてはいないので、ホルンフェルスと名がついているものには当然ながら火成岩由来のものもあれば、堆積岩由来のものもあります。しかしながら火成岩はマグマを元にしたものなので、変成作用を受けたとしてもあまり変化しません。そのため単に「ホルンフェルス」と言った場合には泥岩や砂岩などがレンチンされたものを指す場合が多いです。
結晶片岩
よくよく考えたらここまで高温低圧型の変成岩についてしか紹介していないですね。というわけで低温高圧型の変成岩を一つ紹介しておこうと思います。
低温高圧型の変成作用をもう一度確認しておくと「プレートの動きにドンブラコされて、岩石が 低温高圧で 温められる」と言えます。先程のホルンフェルスの件で「接触変成」という言葉を出しましたが、このように低温高圧型の変成作用のことを「広域変成」ということがあります。これはプレートにドンブラコされて深い場所で起こることの多い変成作用であることから、プレート沿いのある程度広い深めの場所で起こる変成作用なので、「広域変成」と呼ぶことがあります。
結晶片岩はそんな変成を受けたものの一つです。結晶片岩というものはものすごい圧力の中作り出されるため、元の岩石が何であろうがある程度方向性を持った結晶構造を持つ岩石になります。そのため結晶片岩というのはそれなりに大きなカテゴリに近しいもので、「紅簾石片岩」や「緑色片岩」のようにその結晶片岩の中に含まれる代表的な鉱物の名前を加えて呼称する場合があります。
ちなみにもうちょっと結晶構造が発達すると「片麻岩」と呼ばれるようになり、片麻状組織がより強く出るようになります。この片麻状組織を簡単に説明するのならば、紙のように平行に発達した組織が縦に積み重なっているものと言えると思います。
蛇紋岩
前々回の記事の下部で示した通り、ざっくりわかる堆積システムシリーズを執筆し始めているのに無理矢理変成作用関連の話を混ぜ込んでいる原因であるところの、「蛇紋岩」について最後に話しておこうかなと思います。
蛇紋岩の変成は上で触れてきた高温低圧型・低温高圧型の2つとは大きく異なるものとなります。大まかに言えば、橄欖石(Mg2SiO4)が水などと触れて蛇紋石(Mg3Si2O5(OH)4)となる変成を受けるというものになります。捉え方によっては橄欖岩が変成作用を受けることによって蛇紋岩になると言えます。
ちなみに埼玉県立自然の博物館において2022年10月29日から2023年2月26日の間特別展「The蛇紋岩」が開催されるらしいので、興味のある関東圏の方は長瀞まで行ってみるといいかもしれません。行きて~~~!
関連リンク
- 山賀進「変成岩と変成帯」われわれはどこから来て、どこへ行こうとしているのか。
最後に
- 前回のざっくりわかる火山シリーズ: 岩石が料理される変成作用
- 次回のざっくりわかる火山シリーズ: メルト包有物とマグマの揮発性物質
前々回の記事の変成岩に関する内容の薄さに起きてからびっくりしたので、取り敢えず別記事を書きました。厚さが10%くらい増加したと思っています。おやすみなさい。