B-CASをGNUプロジェクトがボコボコにしている文書

DRMの問題はテレビにも。 / 2022-12-06T00:00:00.000Z

Twitterを眺めていたところ、KonomiTVの開発者さんのツイートが目に留まりました。どうやらGNUプロジェクトというOSを作るプロジェクトのページ上でB-CASカードが名指しで批判されているようです。面白そうなので読んでみたらば本当に面白かったので記事にしてみました。

結論

  1. 「Proprietary DRM」というページでDRMの実例としてB-CASが扱われている
  2. やっぱりGNUはDRMが嫌い

Free as Freedom

「Free」という単語にはいくつか意味があります。代表的なものには「無料の/無料な」であったり「自由の/自由な」というものが挙げられます。ではフリーソフトウェアはどのような意味を持つ言葉でしょうか。無料のソフトウェアでしょうか。自由なソフトウェアでしょうか。

フリーソフトウェアというのは以下の自由を持つソフトウェアであると言えます。

  • どんな目的に対しても、プログラムを望むままに実行する自由 (第零の自由)。
  • プログラムがどのように動作しているか研究し、必要に応じて改造する自由 (第一の自由)。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。
  • ほかの人を助けられるよう、コピーを再配布する自由 (第二の自由)。
  • 改変した版を他に配布する自由 (第三の自由)。これにより、変更がコミュニティ全体にとって利益となる機会を提供できます。ソースコードへのアクセスは、この前提条件となります。

引用元: Free Software Foundation, Inc.「自由ソフトウェアとは?

逆に言えばこれらが書けてしまっているソフトは自由であるとはいえません。

代表的なフリーソフトウェアを作るプロジェクトとしてGNUプロジェクトやLibreOffice、VideoLANなどが挙げられます。GNUプロジェクトはリチャード・マシュー・ストールマンさん(RMS)という方が1983年に立ち上げたプロジェクトで、このようなフリーソフトウェアのみで形成されたOSを作ろうとするものです。その成果はLinuxと組み合わされて現在では世界中のコンピューターで動いています。

日本人は自由がそこまで好きではないのか、「フリーウェア」といった際に再配布を禁止してみたりバイナリ配布しかしなかったりしますが、「フリーソフトウェア(自由ソフトウェア)」といった際にはこれらの自由があるソフトウェアのことを考えていることを知っていただければ幸いです。

またこのように自由が大好きなのはソフトウェアに限らず「フリーコンテント」という活動もあります。フリーコンテントの定義はあまり明確ではありませんが、その前提となるオープンコンテントには明瞭な定義が存在しています。私も自由な世界が大好きなのでこのサイトに置いているほぼ全てのコンテンツに対して、オープンコンテント/フリーコンテントとして問題の無いライセンスが付与されています。

DRM

DRMというのはDigital Rights Management、すなわちデジタル著作権管理というのは、デジタルデバイスにおいて無制限に著作物が用いられないようにする技術の総称のことです。何故かコピーを制限することが著作者の利益を守ることに繋がると信じている人々によって導入がなされています。

当然ながら先述のGNUプロジェクトはあまり好意的に見ていません。ただGPLv3クイックガイドにある通り、DRMそのものを禁止しているわけではないことに留意してください。

翻訳

というわけでGNUプロジェクトはプロプライエタリな(不自由な)ソフトウェアとDRMソフトウェアに強い反感を持っています。そのため「プロプライエタリなDRMソフトウェア」はもはや忌避されるレベルにあるといえ、「Proprietary DRM」には恨みが見えるレベルでプロプライエタリDRMの具体例が書かれています。B-CASカードに関する記載は2022年9月に追加されているようです。ということで該当部分を翻訳してしまいましょう。

B-CASは国営放送を含む日本の放送局に用いられているDRMシステムです。B-CAS社が販売しており事実上の独占状態となっています。初めは有料放送向けのものでしたが、無料デジタル放送へも著作権の規制を強制するために利用が拡大されました。このシステムは再配布が可能な著作物を暗号化してしまうことで、ユーザーに認められている権利を否定するものと言えます。

クライアントサイドにおいて、対応する受信機へカードを差し込むか、パソコンへ挿入するチューナーカードに実装されることでB-CASは動作します。このシステムは単にコピーや視聴を大幅に制限するだけに留まらず、バックドアを用意し放送局にユーザーに対する大権を持たせるようなものになってしまっています。例えば、

  • ユーザーのテレビ画面にメッセージを表示させるが、ユーザーはそれを取り除けない。
  • 視聴情報を集め、他者と共同でアンケートを取ることが出来る。2011年まではユーザー登録が必要で、これと紐づいた情報が集められていた。その後そのデータが削除されたかどうかは明らかでない。
  • それぞれのカードにIDが付与されており、複合鍵の更新に通常使われているバックドアを通してそれぞれの顧客に対する固有の更新を行うことが可能。そのため有料放送局は料金滞納が起こると復号を制限することが可能である。この機能は全ての放送局で利用可能であり、どの放送局でも(政府の指示で)特定の人はテレビを見られないようにすることが出来てしまう。
  • 受信機に用いられているソフトウェアは不自由なものであり、カードはWindowsかMacOS向けに設計されていることから自由の世界から日本のテレビを合法的に視聴出来なくなっている。
  • B-CASカードの輸出は違法であるため、日本国外にいる人はスピルオーバーした日本の衛星放送を公式に復号する手段がない。そのため日本で起きている問題を知る貴重な手段が奪われてしまう。

といった問題があります。このため、B-CASカードのバックドアから暗号鍵が取り出されたり、違法なカードが作られ闇市場で販売されたり、コピーコントロール信号を無効化するPC用チューナーが作られたりと、いたちごっこのような状態になってしまいました。

B-CASカードは古い機器で未だ使用されていますが、近年のハイビジョン放送にはこのDRMのさらに厄介なバージョン(ACASと呼ばれているもの)が搭載されており、受信機に内蔵されたチップに実装されています。このチップはコンセントに接続されていれば、例え受信機そのものの電源が切れていたとしても企業のサーバーから独自のソフトウェアを更新することが可能です。この機能が悪用されれば、保存されているテレビ番組を無効にすることができ、言論の自由を妨害することも可能となってしまいます。

受信機の一部であるACASチップは、改ざんされにくいと考えられます。時間が解決してくれるものでしょう…。

Original content's copyright has 2014-2022 Free Software Foundation, Inc. This content licensed under a Creative Commons Attribution 4.0 International License (CC BY 4.0). Translated to Japanese by Osumi Akari 2022. Translated content licensed under CC BY 4.0 too.

NHKを国営放送と見なすかどうかであったり、テレビ番組をB-CAS経由で見られなくするというコスパの異様な悪さは気になりはしますが概ね合っているものでしょう。

最後に

前回の技術関係の記事: サイトのドメインを変更した

普段私は文章にCC BY-SA 4.0を適用していますが、元の文書のライセンスに敬意を示させていただきCC BY 4.0を適用することにしました。このサイトにおいてCC BY-SA 4.0以外を適用したのは「安倍晋三元総理の銃撃事件に関するニュースの記録(CC0 1.0)」以来のはずです。

昼ご飯を食べる前に急いで翻訳を行ったので細かい点が間違ってしまっている可能性はありますが、本当に面白い文章ですよねこれ。B-CASというカスの存在を知ってしまった外国人が調べてみたみたいなもので。

Writer

Osumi Akari