人類の多くは目に触れるもの耳で聞くものなど、外界からやってくる情報に強い影響を受けることが知られています。すなわちその情報を制御できれば人類の多くの意見を誘導できることが出来るようになるかもしれません。情報を制御するという言葉から真っ先に想像されるのは「検閲」でしょう。意外かもしれませんが日本には表現の自由があり、刑法第170条の適用に関する問題はありますが検閲制度は存在せず、自由な言論空間が保たれているということになっています。
しかしながら情報を制御するというのは、ストップをかけるというものだけではありません。今回防衛省が研究している可能性が示された世論誘導の方法は、多くの人々へ影響を与える少数の人の意見を誘導していくといったものです。どういったものである可能性があるのかについて見ていこうかと思います。
結論
- 共同通信が「世論工作」についての記事を出す
- インフルエンサーを誘導する形での世論工作研究
- 詳細は不明
インフルエンサーを誘導
2022年12月9日、共同通信から「防衛省、世論工作の研究に着手 AI活用、SNSで誘導」と題された記事がリリースされました。防衛省が防衛問題に関するインフルエンサーを特定し、インフルエンサーに的を絞って誘導を行うことで間接的に世論を誘導するといった研究を開始したとする記事です。具体的には以下のようなプロセスを取ることで世論を誘導しようとするとされています。
- 影響力のありそうなインフルエンサーを特定
- インフルエンサーが触れる情報源に防衛省にとって有利な情報を流す
- インフルエンサーがこれに影響を受けた発信を行う
- 世論を誘導する
部分的には目新しい手法ではありませんが、インフルエンサーに対して対価を渡したりするなどして動かすわけではないところが面白いところでしょうか。あとAIを導入していることははあまり肝心ではない気はしていますが、取り敢えず壊れたようにAIというワードを含めておけば本当に必要な場所でなくてもプロダクトの魅力になる世の中なので、取り敢えず記事タイトルに入れておいたのかなと思っています。
遠回りに見えるこの方式ですが、2番の「有利な情報を流す」行為を人間が行うのであれば極めて効率的で全く現実性が無い方式ではないといえるでしょう。特定の人間に向けて情報を流すのは、多くの人々を動かすような情報を作り浸透させるよりは明らかに労力がかからない上、より効果的なものになるのではないかと考えられます。またどのレベルで行うかによりますが、有利な情報は作為的になりがちなので、生情報について目の肥えた方はその影響を受けずらいと考えられます。そのためインフルエンサーといっても軍事技術に明るい人ではなく、防衛政策寄りの人をターゲットにしているのかなという印象を受けます。
多くの人々を動かそうとすることは難しく多数の失敗例があります。ちょうどこの記事を執筆している12月10日にも、オーラルたばこを勧めるツイートをする胡散臭いアカウントがTwitter上で大量発生し、無理矢理トレンド入りを果たしたかと思えば「喫煙者必見」という文字列がほぼ全てのツイートに含まれていたせいで、嫌煙家の文句ツイートで検索が埋まってしまうといった出来事がありました。これはあまりにも下手すぎる例ですが、「#教師のバトン」など失敗に終わった物は枚挙に暇がありません。
そのためこの方法は効率的であると同時に、世の中に放たれたらその影響を強く受けてしまう可能性があるということです。誘導されてしまわないように、せめて誘導されていることを自覚できるようにしておきたいなと思います。
参考文献
- 「防衛省、世論工作の研究に着手 AI活用、SNSで誘導」共同通信、2022年12月9日。
最後に
記名無し共同通信の記事の信頼性は若干微妙なところはありますが、もし実際に着手し始めているのならば記録に残しておくべきだと思いこのページを作りました。ここまで明らかになってしまえばそのままこの方法を取れるわけないと思うので、全く同じ形で行うといったものではないでしょうが。
いわゆる認知戦(前線にいない人やその場にいない人がその戦いをどのように捉えているのかを操作する)についての研究であり、必ずしも国民をコントロールしようとしている意図は読み取れないものだとは思っています。日本において他国が同様の行為を行っていないという保証はどこにもありませんし、必ずしも不要なものではないと好意的に捉えることも出来なくはありません。
最後になりますが、武官がこの研究をやり始めているのか、防衛省が文民組織に資金を拠出したのかは明らかではありません。しかしながら信頼の下にかなり強力な実力を独占的に保有している組織が、そのような研究にどのような形であったとしても支援を行うのは嫌だな~~~という気分です。詳細情報や続報は分からない、というより正式な形で出てくるのは数十年後な気はしますが今後の動きは気になりますね。