「signme」という相棒S21第9話で出てきたSNS

本編と全くといっていいほど関係ない / 2022-12-20T00:00:00.000Z

相棒のシーズン21、毎週期待しながらゆっくり見ているところのOsumi Akariと申します。今回のシリーズでは初代(というと怪しいですが長続きしたという意味で)相棒である亀山さんがサルウィンから帰国し、前シーズンの最後で公安調査庁へと行ってしまった冠城さんの「後釜」となって捜査が(勝手に)行われています。

その第9話となる「丑三つのキョウコ」は、相棒シリーズで定期的に作られるSNS絡みのものでした。当然ながらドラマ中の様々な場面でそのSNSが登場したのですが、ちょっと気になる点がいくつか見受けられました。そのため別にSNSに詳しいエンジニアではありませんがそれらの点についてざっくりと考えていきたいと思います。

本編に入る前に一応注意書きを書いていきましょう。ある意味当然なのですが、以下の記載には第9話「丑三つのキョウコ」の重大なネタバレが含まれることが予想されます。個人的にはネタバレはあまり嫌いではないのですが、もしこの記事へとアクセスしたあなたがネタバレを嫌う場合、もしくはこの記事を他人に紹介する場合においてその相手がネタバレを嫌う場合は注意するようにお願いいたします。また本記事内で触れられたものはあくまで私の予想であり技術的な正しさは一切保証されていません。これらの点を理解された上で読み進めていただければ幸いです。

結論

  1. 第9話である意味軸となっているSNS
  2. いわゆるスクリーンネームは存在する
  3. 動画表示時の処理が独特
  4. URLが変化しない?

登場場面をまとめる

まず初めにこのSNS「signme」が作中に登場した場面を列挙していきたいと思います。

ウォーキング大好きマン

本編内で初めてこのSNSが登場したのは、河上さんの殺害現場において亀山さんが恐らくiPhone 13 miniで動画を見せたものです。この動画はウォーキング大好きマン (ただ歩いているだけでは?) というハンドルネームの男性が、死亡推定時刻範囲内の午前2時15分に「丑三つのキョウコ」を殺害現場である「フリースクール河上」の入り口近辺で撮影したものです。

ウォーキング大好きマン

これ、うしみつのキョウコじゃね?
movehe.art/va8CjvlosZew...

という文面です。またリンクが含まれていますがその下に動画のサムネイルが表示されており、亀山さんがタップするとスマホが縦向きであったにもかかわらず横向きのものに最適化されて再生され始めました。

sashimiとの出会い

ウォーキング大好きマンの取り調べが行われた後、右京さんは特命係室でiMacを用いてsignmeを閲覧していました。ここでは「丑三つのキョウコ」の動画を初めてインターネット上に放ったsashimiと名乗るユーザーのページを閲覧していました。上部には「@sashimi」、ユーザー名は「sashimi」と表示されており、プロフィール文は「うしみつのキョウコに初めて遭遇した男… フォローしてくれ!」という身も蓋もないものです。丑三つのキョウコと出会ったこと以外の価値を探してほしい。

右京さんはブラウザからこのサイトを閲覧していたため、URL「http://signme.com/homeset=jl」が見えています。signmeというサイト名はアドレスバーに表示されたURLから勝手に私便宜上付けたものなので、非常に助かりました。このユーザーが投稿している最新のもの(便宜上"サイン"とします)にはリアクションとして「コメント」「リサイン」「共有」「イイネ!」が用意されています。

さて投稿の他にもメニューが表示されておりますので色々と見ていきましょう。まず左カラムにはログインしているユーザー向けの機能が列挙されています。具体的には、

  • ホーム
  • タグ
  • 通知
  • メッセージ
  • ブックマーク
  • リスト
  • プロフィール
  • ニュートピックス
  • サイン

のようなものです。最後の「サイン」はオレンジを背景とする角丸ボタンとなっており、配置としてはTwitter Web Clientと本当にそっくりなものです。またサイドカラムには「同じ投稿を見てるアカウント」が3つ表示されており、

  • 撮り鉄ぎんちゃん(@gingin2199)
  • くるみ(@kurumi0312)
  • テラドット@空説(@boxes-dot)

の3人が表示されています。

閑話休題: 大村啓太郎の名刺

右京さんはこのsashimiとオフラインで会うためにDMを送るのですが、集合場所に指定された場所には大村啓太郎と名乗る社会心理学者がおり、彼もまたsashimiから話を聞く約束をしていたとのことです。sashimiが集合場所につく前に右京さんと大村さんが出会ったため名刺交換が行われたのですが、その中身が色々と気になったのでsignmeと直接関係は無いのですが一応メモしておきたいと思います。

栄和国際大学
社会学部客員教授

社会心理学者 大村 啓太郎

〒 120-951
足立区鎌下町7丁目16-3
Tel: 090-943-475
e-mail: [email protected]
URL: http://www.movehuart.nst.ao.jc
SNS: @666psycologist666

一応全ての要素が実在しないことを確認してここに記載しましたが、色々気になるところがやっぱり存在しますね。まず初めにメールアドレスについてなのですが、「omura-siniri」というめちゃくちゃタイプミスされそうなアカウント名で取ってしまったのでしょうか。名刺に書くメールアドレスは永続的な方がありがたいため個人で管理するメアドを書く方もいらっしゃるとはいえ、大学から出されているであろう名刺に個人アドレスを書くという点も気になりますが、余計な「i」を挟んだ理由も気になります。

さらにサイトのURL、「ao.jc」は実在する「ac.jp」を避けるためだとして、「栄和国際大学社会学部の社会心理学関係の研究室」を示すものがどうして「movehuart.nst」になるのか本当に疑問です。立教大学の英語名称が「Sophia University」のように栄和の翻訳で「nst」のいずれかになるものを頑張って探したのですが、特に見つかりませんでした。また「movehuart」の部分も「moveheart」ならまだしも、ユアールさんの動きをサブドメインにするその考え方は分かりません。

最後になりますがSNS、恐らくは今回のsignmeのスクリーンネームが「@666psycologist666」という、「獣の数字」という意味では地味な伏線が貼られているのですが、それ以上に社会心理学者として堂々と公開しているアカウントのスクリーンネームがこのようなもの大丈夫なのかなという心配が先行してしまいます。やはり色々な意味で気になりますよねこの名刺。

一つよろしいですか?

大村客員教授と共にsashimiと名乗る人物にインタビューを行った右京さんは、そのsashimiによって質問の様子を胸に潜ませた小型カメラによって撮影されそれをネットに公開されるという事態に見舞われました。それをこてまりで小出さんに見せられた右京さんは(職務中の警察官の肖像権が直ちに認められないとはいえ)当然ながら驚いていました。以下のような「サイン」でsashimiによって共有された映像を、恐らくAndroid端末経由で小出さんは見ていました。

キョウコの目撃情報、刑事にまで聞かれた!
movehe.art/vdHvdsollvja...
#一つよろしいですか #うしみつのキョウコ #刑事参上 #本物刑事 #都市伝説
3283件のリサイン

灰色の文字でリサインの数が映像の上に表示されているのが特徴的です。またここにおいても映像をクリックした瞬間に、横持ちに最適化された形で映像が再生されていました。

第2の殺害の瞬間

先述の大村客員教授が、 (やたら肩幅の広い) キョウコによって殺害された瞬間の映像とされるものがsashimiによって公開されました。これを殺害現場の立体駐車場において出雲刑事のスマートフォンで捜一トリオや益子さん、そして右京さんや亀山さんが視聴しています。

ついに決定的瞬間を撮ったど❕

#うしみつのキョウコ #最恐 #バズれ #本物
movehe.art/sdFoMvdkdsjv/uk...

この状況の映像をこんなノリで共有しているその精神を疑いますが、ここにおいても恐らくiPhone 13 miniと思われるデバイスでその「サイン」を閲覧しており、ウォーキング大好きマンの投稿を閲覧した際と同様の挙動を示していました。

挙動を考える

上記のリストにおいては可能な限り感情を抑えて書いては見たものの、色々SNSとしては謎な挙動をしているものだなという感想が漏れ出ているものとなってしまいました。

まず初めにデバイス間での表示が一定していないことが挙げられるでしょうか。フロントエンド-バックエンドという一般的なシステムの構成を考えればデバイス間の表示が一定していないのは一定発生しうるのですが、リサイン数の表示場所であったりスクリーンネームの表示であったりといった、SNSとしての機能の根本に近しい部分の表示がデバイス間で異なるのはサービスとして不親切極まりないものだと思いました。

次にURLも不自然なものであるといえるでしょう。右京さんがsashimiの存在を初めて知ったのはブラウザ上でしたからアドレスバーが表示されていたのですが、「http://signme.com/homeset=jl」というものは不自然なものといえるでしょう。

SNSというのは基本的に双方向のコミュニケーションが行われるものであって、プライベートなやり取りが行われることは当然ながら想定するべきサービスといえます。そのためTLSによる通信経路の保護が当然ながらなされるべきなのですが、スキームが「http」となっており、適切な保護がなされていないといえるでしょう。ページ自体がTLS保護されていたとしてもフォームの送信先や画像の読み込み先の保護が存在しないサイトは時々見受けられますが、ここまで堂々と保護していないことを見せつけているSNSは今時存在しないでしょう。

また右京さんが閲覧していたのは「sashimi(@sashimi)」というユーザーのアカウントです。折角スクリーンネームが設定されているのならばTwitterのようにURLの末尾にスクリーンネームが見えてもいいものですが、「homeset=jl」という謎の引数が付いたものとなっています。URLによって一意に存在を示すことが出来れば、投稿する側にとってもその投稿を共有する側にとっても便利なものだと思うのですが、どうしてこのsignmeはそうしたURLにしなかったのか疑問に思います。

挙げればきりがないのでこれで最後にしますが、動画を再生すると自動的に横持ちに最適化されるSNSのUXはあまりよろしくはないものである可能性は高いでしょう。動画は流動するSNSの中でユーザーが長時間留まることは知られていますが、それにしても動画を再生しただけで全画面を占有しかつ縦持ちで投稿を読んでいたとしても90度傾いたものを見せつけられるのは気味のいいものではありません。またmovehe.artという外部サイトに動画をホストしているように見えたのですが、movehe特有のUIが見られなかったのもちょっと不思議だなと思いました。一時期のTwitterとtwitpicの関係性のようなものかもしれませんが、moveheサイドに利益の無い共有のされ方がされており、この点もまた不自然なものであると感じました。

最後に

この手のドラマに登場するSNS、それもストーリーに直結しない部分の実在性を考えるのは野暮であると思っています。サルウィン語のようにストーリーに直結するならまだしも、明らかに直結しない部分について画面に齧りつきながら考察するということは世の中でトップレベルに非生産的な行為でしょう。このようなことを思いながら深夜4時にこの記事を書いてます。しかしながらこういった細かいところが気になるのが私の悪い癖。注意するようにします。

さて今回の第9話では悪質なフリースクール、いわゆる「引き出し屋」という存在が明確に名前は触れてはいないものの、ストーリー上かなり重要な役割を担っていました。ネット上での感想を見るとあまりこの点に注目したものがあまり多くなかったのですが、個人的には(現実における)重要な問題だと思っているのでちょっとだけ書かせてください。一番最初に殺害された河上が運営している「フリースクール河上」は典型的な引き出し屋として描かれています。本編中にもありましたが、一般的に

  1. 部屋に籠っている人を「引き出す」依頼を親類から受ける
  2. 当人の意思に関係なく無理矢理部屋から出させる(時に暴力的手法がとられることがあるが、大半は部屋の提供者である親類によるものなので通報されることがない)
  3. その業者や関連のある団体が運営する「施設」に入居させる
  4. その施設はクオリティが低いことや外部の監査が不足している場合がある上、依頼した親類には非常に高額の請求がなされる

といったものが引き出し屋の典型的な手口です。3年ほど前にTVタックルでこの引き出し屋を肯定的に扱ったところ非難轟々といった出来事があった通り、一部にはこのような業者を非難する人も存在します。とは言ってもこのような人権侵害業者が許容されている、少なくとも依頼者が存在しビジネスとしてある程度成り立っている背景として「ひきこもりは絶対悪」であるとする視点が世の中に存在しており、ひきこもり状態から脱すること「それだけ」を目的としていることが良いとする人々が大勢存在していることが原因の一つであるといえます。

個人的にはひきこもる側にのみ原因を求めないようにするだけで、ひきこもりの原因・発生を減らすことがまず第一だと思っています。またひきこもる以上に魅力的な社会を築くようにすれば、自然にひきこもり状態にある人が「出てくる」可能性が上がるのではないかと思っています。もちろん現実にはここまで上手くいかないでしょうが、だからといって人権蹂躙を黙認することが良いことであるのか甚だ疑問です。

最後になりますが、私はこういった重層的なストーリーでありかつ犯人に同情してしまいそうである回は大好きなので何回も見てしまい、この記事のようなしょうもないところに注目して見てしまいました。この第9話は今シーズンにおいては第4話の「最後の晩餐」と比べられないくらい良い回だと思っています。元日スペシャルはどうなるのか楽しみです。それでは。

Writer

Osumi Akari