「Web3.0の教科書」の第1章から第3章を読む

ブロックチェーンとデジタルゴールド(???) / 2023-02-08T00:00:00.000Z

前回の記事では「Web3.0の教科書」の序文を読んでみました。若干の不安があるという気持ちはありますが、2500円かけて購入したので読み進めてみようかと思います。 コンコルド効果ですね、これ。

結論

  1. ブロックチェーンをBTCだけの話題に矮小化しているかも
  2. BTCはデジタルゴールド(らしい)
  3. ボトムアップの革命らしいWeb3.0

ブロックチェーンはBTC?

「Web3.0の教科書」を名乗るだけあってブロックチェーンから話を始めています。これは納得なのですが、ビットコインがその一例として出されているというよりはビットコインがブロックチェーンのほぼ全てであるような解説となってしまっている印象を受けました。ブロックチェーンを使用したプロジェクトの中で一番活発なプロジェクトである(筆者の表現を借りるのであれば、ブロックチェーンを牽引している)ビットコインの解説をするというのはいいのですが、イーサリアムとかの異なる特徴を持ったブロックチェーンを用いるプロジェクトであったり、Rippleといったブロックチェーンを使っていながらも分散性に乏しいプロダクトであったりを説明していただければよりブロックチェーンに対する理解が深まるのではないかなと思います。

デジタルゴールド

筆者はビットコインが採掘量が限られている(希少性)があることを主な理由として、ビットコインは金と同様に無限に近しいインフレが発生し得ない安定資産であり、「デジタルゴールド」であると主張しています。中央政府の管理下にある一般的な通貨は政府の求める対応のためにその発行量が大きく変更されうるため、国民の貯蓄が一方的に棄損されてしまうという可能性があること、発行量の上限が事実上存在しないため相対的に無価値になりやすいことから、市井の人々はインフレに対するリスクヘッジが求められるとしています。伝統的には金ではあるのですが、ビットコインもその地位にあるとしています。さらに投資資産として見た際でも優秀であるとされていることから、安定資産としての性質と投資資産としての性質を併せ持っているとされています。

個人的にはこれに反発する立場を取っているのですが、調べてみると似たような立場を取っている人がそれなりにいたので、一旦この本の外に出てみて金とBTCの類似性を主張する人々の主張を見てみましょう。信頼性の検証はしていないのですが、海外の方が製作された以下の動画で大まかな解説がなされていました。

Direct link of this video on YouTube

ここで紹介されている画像の元ネタを探すために動画中に登場するRedditのスレッド「Gold chart vs Bitcoin chart」へとアクセスしてみたのですが元の画像は削除されてしまっていましたしかしながらコメントを読んでいくと以下の画像へのリンクがありましたので、オリジナル画像かどうかは分かりませんが貼っておきます。

画像「Bull/Bear?」

これだけ見るとさも金とビットコインのレートに相関性があり、仮想通貨は資産として金に類似していると思われるかもしれません。しかし2021年に書かれた「ビットコインと金」という記事を読んでみるとどうやらそうではない感じがするのではないでしょうか。

金がその価値を保っていられるのは、基本的に希少性と金そのものの利用価値に立脚していると言えます。これに対しビットコインの価値は希少性とマイニングによる価値創出に立脚していると考えられます。ビットコインを持っていることによる純粋で直接的な価値は全くと言っていいほど存在しない(社会的なステータスとか換金可能かとかについてはビットコイン そのもの の価値ではない)ため、ビットコインの価値は供給量の限界と新規供給によって支えられていると言えるのではないでしょうか。まあこのブームによる価値の増加というのも無視できないとは思いますけど。

ビットコインの供給量は2100万枚と上限が定められており、これに向かって徐々にマイニングによって新たに発行されるビットコインの量が減少するようになっています。このシステムはマイナーの早期参入を促し、ビットコインのエコシステムの成立に大きく寄与したことは間違いありません。しかしマイナーとしての参加難易度が極めて高くなってしまい、ある意味寡占状態にあるこの時代において新規マイナーにとっては魅力が薄く、既存のマイナーが細々と減少し続けるマイニング報酬を受け取り続けるのではないかと思っています。そのため将来的にトランザクションに対する代償としてのマイニング報酬が、現実の電気代にマッチするような値動きをする(すなわち トランザクションの処理費用とビットコインの価値がリンクする ようになる)と個人的には予想しています。そのような環境下においてビットコインの価格が金と類似したレベルの安定性があるとは到底言えませんし、耐インフレ性はほとんどないと言えるでしょう。

ボトムアップの革命

Web 3.0はボトムアップの革命である。個人的にこの主張は正しいと思っています。サトシ・ナカモトさんは匿名ですし、どこかの政府や国際機関がブロックチェーンなりビットコインなりを使おうとして、何の影響も受けずに始まったようなものではありません。この本の著者はWeb 2.0を「スーツ」、Web 3.0を「コミュニティ」に例え、コミュニティが持った「分散」という武器が革命を着実に推し進めるとしています。

しかしながら革命がなされたとしても、「革命の後」のビジョンが大味であることから結果として何も生んでいないようなものになりかねないという危険性をはらんでいることは指摘しておくべきだと思います。現状のようにふわっふわな概念であり何を目指しているのか明瞭ではない上に、分散・オープンというWeb3にありがちなストーリーが必ずしも守られていないこと(NFTとかDAOとか)からしても、革命による果実は多くの人々にとってしょうもないものとなってしまう気がしてしまいます。例えこれがボトムアップであったとしても、それを堂々と引っ提げて自慢できるレベルの何かではないような気がしており、ちょっと嫌な気持ちになりました。

関連リンク

最後に

Web 3.0という概念が極めて不明瞭なものなので、人によって扱う話題が異なってしまうのはしょうがないことであると考えられます。しかしだからといってビットコインの周囲ばかりに話を落とし込まれてしまうと、「Web3.0の教科書」を名乗る割には話題が狭いと思ってしまいます。この後の章でビットコイン以外の話にも触れてはいるものの「それ、分散されているブロックチェーン関係なくない??」みたいな内容が多いので、こんな書き方になっています。

Writer

Osumi Akari