「Web3.0の教科書」の第7章から第9章を読む

本当に感動出来るWeb3.0サービス群!!! / 2023-02-10T00:00:00.000Z

「Web 3.0」という謎の概念が表現するプロダクトは本当に広いのですが、暗号通貨関連のある意味「本筋」とは関係なさそうな分野としてNFTやDAOと呼ばれているものがあります。個人的にこれらの存在する意味を全くと言っていいほど理解できないのですが、「Web3.0の教科書」と名乗る書籍にはそれ関連の記述がありますので、頑張って理解することを試みていこうかと思います。

結論

  1. NFTの価値
  2. Play to Earn
  3. DAOって何だお?

NFTに価値はあるのか

NFT(non-fungible token)、最近流行っていますよね。キャプテン翼のNFTゲームの運営が開始されたりドナルド・トランプさんが自分自身のNFTトレカを販売したりしています。購入したNFTは複製不可能でそれはブロックチェーンに記録されているため改ざんが出来ないというのは魅力的に聞こえるかと思います。

しかしながら私は本質的にNFTはただのレシートだと思っています。ブロックチェーンは基本的に取引の記録のために生まれたものであるため、大半のブロックチェーンは大量のデータを保管するように設計されていません。一応取引そのものに関係ないデータをブロックチェーン上に記録することそのもの自体は出来るのですが、大半のブロックチェーン上においてそれはキロバイトオーダーです。そのため非代替性を確保するために、NFTではブロックチェーン上に取引IDやウォレットのアドレスに加えてデータの場所を記載し、実際のデータは別の場所に置くといったことが行われます。これを図にしてみると以下のようになります。

NFTにおけるブロックチェーンとの関係性

ここで重要なのはブロックチェーン上には取引の記録こそ残りますが、データそのものは別にブロックチェーン上に残るわけではありません。そのため取引されたNFTがいつまでそこに存在するといった保証はありませんし、それがずっとそのままでいるといった保証はありません。さらにこの構造をよく観察して見ると、対象とするデータがNFTにされることを受け入れているのかそうではないのかを確認するといったプロセスが仕組み上存在しません。そのため適当なデータを用意しそれをNFTとして売り出すのみならず、他人のデータ(例えばこのページ)をNFTとしてマーケットプレイスへと売り出すことも不可能ではないということです。

このことを非難する目的で、NFT界隈では有名なBAYCのデータを複製した上で、他のNFTと同様に売り出す「RR/BAYC」というプロジェクトが2021年に生まれてしまいました。アメリカ合衆国における著作権法上のパロディの扱いは、フェアユースが成立するかで決まるとされており、BAYCの運営元によるDMCAテイクダウン通知を跳ね除けることに成功しています。このことから分かる通り、NFTは単なる「データをやり取りした」という記録のみが残る「単なるレシート」であって、いくつでも発行でき実際のアートそのものに対して明瞭な形で価値を与えるものではないことが分かると思います。

これらの問題を解決するためにLootと呼ばれる全てのデータをブロックチェーン上に保存するNFTプロジェクトも立ち上がっています。これは出品されているデータがただのテキストデータであり極めて小さいものとなっています。そのためブロックチェーン上に全てを保存することが可能であるため、「消えてしまう」「改ざん可能である」という問題を解決できるとしています。しかしながらこのようなものにおいても、同一のものに対して複数のNFTを発行可能することが可能であるという点は解決されていません。

他の問題としてNFTを取引する場所という極めて重要な箇所が中央集権的な場所であるといった問題があります。例えばOpenSeaというのはよく知られたマーケットプレイスですが、これは私企業が完全にコントロールしているものです。このこと自体に問題があるというわけではありませんが、Web 3.0を謳いながら結局(Web3とか言っている人から見た時の)Web 2.0的なマーケットプレイスを活用しているのはあまり良くないことであると言わざるを得ません。

このような性質を持つNFTについて筆者はその事例を大量に紹介した後に大まかな仕組みの解説をしています。まあ「教科書」らしく基本的にこのような反発するような書き方はされていませんが、概ね事実ベースで書かれており、OpenSeaの中央集権性についても触れられていて個人的には嫌いではない説明でした。

さらには筆者は232ページのコラムで「マーケティングが必要なNFTはノイズでしかない」というタイトルの文章を出しており、ここについては筆者と同じ意見を持っています。Web 3.0を前面に押し出してNFT絡みの何かを売り出すのならば、どうせなら余計な人が介在しないシステムに頼ったものにするべきであると思っています。前3記事を読んでいただければ分かる通り大半の部分で私と筆者の考え方は合わない物でしたが、ここで一致できる意見が存在してちょっと嬉しくなりました。

稼げるとは言ったが稼げるとは言ってない

dAppというのは分散されているアプリケーション、すなわちイーサリアムのネットワーク上といったものの上で(少なくともその一部が)動作しているアプリケーションのことを指します。dAppには様々な種類がありますが、その一つにゲームの根幹へとブロックチェーンを組み込んだゲームがあります。そのようなゲームの内暗号通貨を組み込んだものはGeFiと呼ばれており、「Play to Earn」を売り文句としてユーザーを呼び込んでいます。

その一例としてAxie Infinityが挙げられており、例のごとく肯定的な説明がなされています。このゲームは「Axies」と呼ばれるペットのようなものをユーザーが育成し、他のユーザーが育成したAxiesと対戦することが出来るゲームです。以下のトレーラーを見れば大体どのようなゲームであるかは分かるかと思います。

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これですとよくあるカジュアルなゲームであるかと思いますが、このゲームが世界的にプレイされている一因としてゲーム内通貨「SLP(Smooth Love Potion)」が暗号通貨として発行されるというものが挙げられます。これはブロックチェーン上にしっかりと記録され、暗号通貨取引所を通してビットコインやイーサリアムと交換できることが知られています。またAXSと呼ばれるガバナンストークンやイーサリアムの高いガス代を軽減するためのRoninブロックチェーンがゲームと極めて密接な関わりを持たせられています。

「Web3.0の教科書」を読む限り、このゲームはポンジスキームではなく継続性が極めて高いゲームであるとのことです。ところが現実は非情であり、前者の話は置いておいて後者は否定されるべきものでしょう。

詳しい話は「鳴り物入りの仮想通貨ゲームAxie Infinityが崩壊した経緯」という記事に詳しいのですが、2022年に入ってから著しくトークンの価値が下がっており、根幹となっているものの価値がほとんど存在しない状態になっています。またこのゲームをプレイするためには高額のNFTを購入する必要があり、それが手に入らない場合は他者から貸し出しを受ける代わりにゲーム内で得られた利益の数割を持っていかれるという、ゲーム内で奴隷生活が楽しめる素晴らしいシステムが存在しており、そういった面での問題が知られています。またRonin Networkから大量のイーサリアムとUSDC(合衆国ドルにベッグされているステーブルコインの一つ)が盗まれたことや、SLPの価格が99%以上下がってしまっているといった問題もあり、ゲーム内経済が崩壊してしまっていると過言ではない状態にあります。

DAOって何だお?

DAOというのはDecentralized Autonomous Organizationというものの略称で、日本語では「分散型自律組織」という名前で知られています。これは企業や団体といったものをブロックチェーン上で実現するものとされており、捉え方によってはビットコインやイーサリアムもこれに含まれます。「教科書」によれば組織内で働く人がいるもののその中心にはプログラムがあり、透明性が確保されているものとされています。

ただDAOというものはよく見れば意思決定がブロックチェーン上にあるだけの、ただの組織であると言わざるとえないものにすぎないでしょう。金銭のやり取りが透明化されていたとしてもそれは現状の企業でも不可能ではないことですし、ブロックチェーンという極めて高コストなデータベースでトークンという不安定な価値を基に意思決定をしているだけの集団と見なすことも不可能ではありません。中心にはプログラムがあるとされていますが、投票にブロックチェーンが用いられるだけで結局はただの集団であると言えるでしょう。そのようなものをわざわざ持ち上げて話しているのはちょっと…という気持ちになってしまいます。

最後に

根本的に私がNFTやDAOを好意的に見ていないので批判的な記事となってしまいました。世の中には様々なインフルエンサーを名乗る方々が書かれた礼賛記事が大量にあるので、肯定的な記事が読みたい方はWeb 2.0のツールであるGoogleやBingといった検索エンジンを用いて検索してみてください。

Writer

Osumi Akari