Web3.0の教科書という本を約2500円で購入し、第1章から第3章・第4章から第6章・第7章から第9章に分けて、読んでいて引っ掛かった点をメモ代わりに書かせていただきました。この本は10章構成なので、最後の章を頑張って読んでいこうかと思います。
結論
- 日本においてはWeb 3.0が発達しづらい
- Web 3.0に参入すると億り人になる!!らしい
現実とWeb3.0と
第1節と第2節ではそれぞれWeb3.0を導入する際の課題について、一般論と日本特有の事情に分けて解説されています。ここに書かれている事柄については正しく、私が知らなかったことまで普通に記されており見識を広げることが出来ました。
日本特有の事情として挙げられるものとして暗号通貨取引に関する税金に関するルールの問題が大きく取り上げられていました。詳しい話は国税庁が出しているFAQを参照していただきたいのですが、暗号通貨の取引によって利益が出た際、それが日本円になっていなかったとしても課税対象になるというルールが日本にはあります。一見すると問題ないように聞こえるのですが、暗号通貨は値動きが激しいため多くの売買が行われる傾向が他の投資商品と比較して強いと言えるでしょう。このため税金が膨らみがちになる上、納税は日本円で行う必要があるため、税金のために資産を取り崩す必要が出てくる可能性があります。また雑所得として扱われるため損益通算を用いて税金を圧縮することが難しくなってしまう場合もあります。私もこの税制にした意味が理解できず、暗号通貨をトレードするという行為は通常の投資商品と比較して異様に価格の上がり下がりが激しい以外に投資を遠ざけてしまう理由の一つとなってしまっています。正直に言えば静かになってくれた方がトランザクションの費用が少なくなるので個人的には嬉しいのですが、Web 3.0を産業として盛り上げたい人々にとってはあまり歓迎されるものではないのでしょう。
Web3.0参入チャート
さて、最後の節である第10章3節の「Web3.0で生き抜くための考え方と持つべき精神性」について扱っていきましょう。個人的にはこの節を読むだけでこの本がどのような性質があるかを感じ取れるレベルの突出した特徴を持つ場所だと思います。実際に仲のいい方にこの節を読んでいただいた(n=1)のですが、「あ~~~…。何というかWeb3、という感じがするね…。」とのことでした。
最初のページから「まずはトークンを購入してWeb3.0を体験」することを勧めています。オープンなWeb3.0で提供されているdAppsを体験したりブロックチェーンの仕組みを勉強したりするといったコストのかからないことではなく、コストをかけてトークンを購入し価格の変動に驚きながらWeb3.0を学ぶことを勧めています。個人的には投資を勧める人とは思えない文句だと思いますがどうでしょうか。
その次のページには「Web3.0参入のフローチャート」と題する図が掲載されています。この図が何というか…何というかといったもので、「生活が安定しており、定期的な収入がある」ならば「(BTCを購入して)長期保有で億り人」になれるとしています。さすがに全体を転載するわけにはいかないのですが色々ツッコミどころが多いフローチャートで、問題のありそうな表記を箇条書きすると以下のようになります。
- 定期的な収入が無ければWeb3.0に参入してはいけないように読み取れること(オープンとは?)
- 「取り敢えず」ビットコインを買ったり、「仕組みを知った」だけでビットコインを買ったりするという合理性のかけらもない行動をすること
- 新人研修(ビットコインの価格が大幅に下がること)を織り込み済みであること
- 何があろうとも損切りをしない前提であること
- 一般の投資においては購入価格を10%から20%下回った時点で損切りを行い、ダメージを軽減しようとします
- FXなどでは「ロスカット」というワードで知られています
- 新人研修を受けたら買い増しを行うという前提であること
- ナンピン買いをするにはリスク高すぎない?
- 既存金融が不便であることはビットコインが便利であることを示さない
- 「デジタルゴールド(第1章から第3章を参照)」であることが購入の動機の一つであること
- 分散投資を一旦通りながら結局ビットコイン一辺倒になっているように読み取れること
- 結果として「長期保有で億り人」になるらしい
ここまで来ると「再現性100%」を謳う情報商材と見分けがつかないのですが、Amazonで星4の評価がある「教科書」であることを鑑みて頑張って読み進めてみましょう。フローチャートの下には「投資はメンタルが最重要」と書いてあり、上のフローチャートが無ければそれはそうだなと思えるのですが、要約すれば「何があろうととにかくビットコインを買い増せ!!!」と言っているだけなので、うーんという気分になってしまいます。ついでに言えば「短期的な利益を求め、高いAPYのギャンブル的なDeFiにApein…」という風に書いてしまうの、純粋に読みづらいので日本語で書いてくれれば嬉しいなという気分です。
この節が始まってまだ見開き2ページなのですが、原稿用紙3枚越えの長文お気持ちを錬成してしまいました。勇気を出してページをまた1つめくっていきましょう。そこには「新人研修」に関する記述が待っています。感動ですね。
- 新人研修はしょっちゅう起こることなので、損失が出ていても慣れてしまう
- 損切りすることは非常に億劫
- 「下落したBTCを保有している自分」を正当化するため、行動派も勉強するようになる
…といった、そんな状態で投資に手を出すなという感想しか出てこない文字列が並んでいるのですが、一度Web3関連本で回収騒ぎを起こしてしまったインプレスが満を持して出した「教科書」なのでまた読んでいこうかと思います。また既存金融のUI/UXが良くないと感じることはまああるかもしれませんが、であるからと言ってDeFiという信頼性と法的な安全性が怪しいサービスを使ってみようとはならないし、運営会社を信用できなくなるレベルに至るかというと微妙な気はします。手数料がいくらかというのはまともな金融業者であれば割と分かりやすく書いてありますし、どういった場合にいくらの手数料が発生するかを考えてみる(そしてどうやってケチるかを考える)時間は割と楽しいのですが、そういった方向に行かずにとにかくビットコインを買い増すだけなのはな…と思ってしまいます。
見開きの右側には「Web3.0では金銭的にリッチになるが心がプアになる」というタイトルのコラムが掲載されています。このようなものを掲載しておいてビットコイン投資を始めてみようと思う人がいるのかは火を見るよりも明らかであると思うのですが、何故か掲載されてしまっています。ここにおいてはWeb3.0初心者がBTCマキシマリストになるまでのステップが15個に分かれて掲載されているのですが、「情報収集用に(Web 2.0の最たるものである)Twitterアカウントを開設する」だの「少しずつ休日の感覚がなくなってくる」だの「突然、知識の点と点がつながる瞬間が訪れる(Web3.0への目覚め)」だのといった形で、カルト宗教の被害者による手記を読んでいるような気分になってしまいます。「布教を試みるが全く理解されずに孤立。唯一反応があるTwitterにさらにのめりこむ」「Bitcoinの思想にのめりこむ」とか書いていますし。こういった文章を臆せずに「教科書」として出版できるのはさすがだな…と感じてしまいました。
その後ろには暗号通貨+NFT+DAOでマズローの欲求全てが満たされるという主張であったり、Web3.0の根底にはOSSの思想が流れているとしたり、Web3.0は生き方そのものであるという言説であったりが掲載されています。「Web3.0で生き抜くための考え方と持つべき精神性」という節のタイトルにふさわしい内容であるなと感じます。
最後に
というわけで「Web3.0の教科書」を批判的な視点から頑張って読んでみました。基本的に読んでいて引っかかった点を書いているので文句ばかり書かれたクソ記事だと思われると思いますが、この本にはメルマガ由来の面白い記述がたくさんありましたし、読んでいて楽しくなる記述も無かったわけではないので、興味のある方は読んでみるといいかもしれません。インプレスブックスのこちらのページには情報がたくさん掲載されているので、興味のある方にお勧めです。
追記: 増田に「Web3って流石にヤバくないか?」という記事が上がっていました。個人的に読んでいて面白かったので取り敢えず載っけておきます。また「Re: Re: Web3って流石にヤバくないか?」という記事もまた面白いので読んでみてください。