海岸沿いの露頭、海へ落ちたり足を滑らせたりして命が無くなるというえげつない恐怖(本当に怖いし、帰ってきた時には毎回「生」を感じるレベル)を除けば私は大好きなのですが皆さんはどうでしょうか。
そのような海岸沿いを歩いていると、たまにガビガビになったスポンジのような露頭に出くわすことがあります。初見ではどのようにして形成されたのか想像することは難しいのですが、実は風化(物理的風化)を受けて形成されるものです。タフォニというかわいい名前もついています。
というわけで今回の記事では、スポンジのような「タフォニ(tafoni)」についてざっくり触れていこうかと思います。ちなみにタフォニは複数形で、単数形は「tafone」らしいです。
結論
- 海沿いのボコボコ
- 物理的風化で作られる
- 元々海沿いだった証拠にも
風化で作られるボコボコ
こんなサイトにアクセスしてくるような皆さんの大半は、一度は海沿いで地層を凝視しながら歩いたことがあるかと思います。無い方は海に行ったときに地質図Naviをたまに開きつつやってみてください。海で泳いだりバーベキューをするより8億倍楽しいと思います。多分。
ところで海沿いを歩いていると(規模感に差こそあれ)こんな感じの露頭を見かけたことがありますか?
見たことがないと話が進まないので見たことがあるということにさせてください。見たことない人は今写真を見たので「見たことある」カウントします。
さてこのような穴ぼこは自然に出来たもので「タフォニ」という名前がついています。このタフォニは海岸と言っても海岸から少し離れたところ、すなわち海中や波打ち際ではなく少し奥まったり高かったりするような場所によく見られます。意外なことにどのように出来たかはあまり知られていないかと思いますので、ざっくり説明していきます。
4日前の記事では「風化作用」一般について説明させていただきましたが、タフォニは物理的風化の一種である塩類風化によって形成されます。海水には塩(えん)が大量に含まれていますが、その海水が稀にかかるような場所ですとその塩が析出しある程度の大きさまで成長することがあります。
そうすると結晶が成長することによって結晶が形成された場所にある岩石の側面を物理的に破壊するということが起こります。タフォニが形成されるような岩石として花崗岩が知られていますが、別に花崗岩に限って形成されるといったことは無く堆積岩であろうがその他の火成岩であろうが結晶(とタフォニ)が形成されます。そうすることで岩石の表面が少しずつ破壊されることが繰り返され、数十年から数百年といったそれなりに短い時間的スケールでタフォニが作り出されます。
ちなみにこの風化のことを特に穿孔風化(せんこうふうか、cavernous wethering)や蜂の巣状風化(alveolar wethering)と言います。「V字谷を作った侵食作用」というような関係の用語なので、穿孔風化がタフォニの別名ではないということに一応注意してください。
元海沿いの可能性も
一応タフォニの形成メカニズム的には塩化ナトリウムではなくとも、例えば硫黄などの結晶によって前述のような物が形成されることがあります。こうしてできた穴のことは「風化穴(マナ)」と呼ばれており、山の中で見つかることがあります。
しかしながら塩化ナトリウムが原因となって作り出されるタフォニが海沿い以外に存在しないということではありません。現在は山の中だったとしても昔は海沿いにあったという理由でタフォニが存在するということがあるからです。
こちらの写真は和歌山県にある「虫喰岩」という露頭です。地理院地図で場所を確認していただきたいのですが、海から直線距離でも2.8kmほどあり、明らかに「海沿い」とは言えない場所です。しかしながらかつて海沿いであったことから先述のようにタフォニが形成され、それが隆起によって山の中となったと考えることができ、実際そのようであると考えられています。またこのように「かつて」を示す点などから日本の地質百選に虫喰岩が選ばれています。
参考文献
- 松倉公憲「地形学」朝倉書店、東京、2021年9月1日。ISBN 978-4-254-16077-2。 NCID BC09567566。OCLC 1268511660。国立国会図書館書誌ID:031624974 全国書誌番号:23586669。
最後に
個人的に見た目と「タフォニ」の語感が大好きなので割とノリノリで記事を書くことが出来ました。嬉しいです。タフォニを写真で表現するのが難しかったので微妙な写真での紹介となってしまったのがちょっと残念です。誰かタフォニの撮影方法を教えてください。
完全にどうでもいい余談なんですが、渋谷の街を爆音で走るアドトラックから聞こえる「バーニラ、バニラ、バーニラ、求人♪」の曲の「バニラ」に「タフォニ」がぴったりはまるような気がずっとしています。本当にどうでもいいのですが、誰かに言いたかったのでここに書かせてください。