河岸段丘という侵食の歴史の証人

川を真ん中に「だん・だん・だん」 / 2022-10-13T00:00:00.000Z

侵食作用は、名前の通り地面を削ることによって様々な変化を大地にもたらしています。その一つに地形を変えるということが挙げられます。今回はそのような侵食作用が強く影響して作り出される地形の内「河岸段丘」というものについてざっくりと見ていこうかと思います。

結論

  1. 天然の段々
  2. 河床が取り残される

一旦達観

河岸段丘そのものを説明する前に、これと密接な関りがある「下刻」や「侵食基準面」といったものをざっくりと解説させてください。

下刻と側刻

下刻(かこく)と側刻(そっこく)というワードがあります。これは河川による物理的侵食作用を大きく2種類に分けた時に使われる言葉で、

  • 下刻: 河床下に侵食する作用
  • 側刻: 河岸横に侵食する作用

といった意味があります。もちろん河川が流れている限り基本的にこの作用は同時に発生するものです。下刻は結果として河川の傾きを緩やかにすることで侵食作用を緩める効果があります。また側刻には下向きの侵食作用そのものは変化させないものの、運搬される土砂の量を増加させたり河川を曲げさせることで結果として河川を緩やかにさせたりするといった機能があります。

侵食基準面

さて、地形輪廻の記事において私は侵食作用と堆積作用のどちらがどのような場合に卓越するのかについて、簡単ですが次のような説明をさせていただきました。

  • 水のにある時は削られ
  • 水のにある時は積もる

しかしながらここで抜けている視点が一つあります。それは「どのような状態なら削られまた積もるといったことが発生しないのか?」ということです。賢い読者の方なら薄々感づいているとは思いますが、その答えは地表と水面が水平になり、水で覆われているわけではないが水面と高さが等しいがために水流が発生しない、すなわち侵食作用も堆積作用も発生しないといった状況です。

もちろんこのような状況は理想的なのですが、地形学的に侵食作用を考えるのであれば「侵食作用の限界」がどこにあるのか、つまり3次元的に見れば度の高さの面が限界なのかということは極めて重要です。そのため下刻の限界の面のことを「侵食基準面」と呼んでいます。河川による侵食作用は陸上全体における限界の面といえるので、特に「一般基準面」と呼んでいます。

さて一旦侵食基準面に達した河川が再び盛んに侵食を行うにはどのようなことが起きればよいのでしょうか。

復活した時に

それは侵食基準面に対して相対的に陸地の方が上がっている状態になることです。こうすれば河川は(水の上にある時は削られ、という言葉通りに)再び侵食基準面に達するまで侵食作用を続け、地面を削り続けます。ではこの「侵食基準面に対して相対的に陸地の方が上がっている状態」になるためには何が起こればよいのでしょうか。大きく分けて2つの方法があります。それは、

  • 隆起
  • 海面下降

の2つです。あくまで相対的に上がってればよいので、陸地の方が上がる隆起の他に海面(侵食基準面)の方が沈んでいく場合でもOKです。

さて文字数にして1000文字以上と前置きが長くなってしまいました。もしこのようにして侵食復活が起こった場合、河川は当然ながら下刻をするのですが、その際の河床はそのまま侵食基準面に達する前の河床のままかというとそんなことはありません。そのため元の河床よりも狭い場所を下刻するといったことがあります。この結果復活した後の河川は元の河床よりも狭くなり、侵食基準面に達する前の河床は復活後よりも相対的に上部にあるといった事態が起こります。

このようなことが一度もしくは複数回起こると、以下の画像のような断面を持つ地形が形成されます。画像のものは2サイクル目ですね。

河岸段丘の概要

これが今回のテーマ「河岸段丘」です。河川があれば発生しうる地形なので全国各地に規模の差こそあれ存在する地形です。よくある成因をより具体的に考えるのならば、氷期・間氷期サイクルに伴う海水準変動が原因となっていることが多いです。

段丘というのは段丘崖(だんきゅうがい、terrace cliff)というそれなりに急な斜面と、比較的平らで現在の河道に向かって緩やかに傾斜している場合も多い段丘面(terrace surface)の2つから形成されています。ちなみに段丘崖は河道に近い方が前面段丘崖、遠い方が後面段丘崖と呼ばれています。地形の形成時期(地層の形成とはリンクすることは少ない!)としては、後面段丘崖と段丘面がほぼ同時期に形成され、前面段丘崖は段丘面よりも最近形成された地形となっています。

土地利用についてなのですが、基本的に段丘面は河川を物理的に下に見ているため、現在河川が流れている面以外は水に恵まれない地域になってしまうことが多いです。しかしながら用水などによって別に水資源が得られる場合は話は別なので、農業的な視点から河岸段丘を見る場合は注意する必要があります。

代表例

ここではいくつかの河岸段丘の例を紹介していこうかと思います。地理院地図のリンクは淡色地図+色別標高図のもので、地理院地図3Dへのリンクはその地域を3D化し、高さ方向についてのみ3倍に引き伸ばしたものを掲載しています。ブラウザでグルグルして遊んでみてください。

金沢

金沢は中心部にバスが盛んに走っており、名所もある程度コンパクトにまとまっていることから、観光をするにはとてもいい街だと思っています。しかしながら観光客の大半が用いる移動手段であるところの「徒歩」という点に目を向けると、坂がある程度あるといったマイナス点が存在します。また中心部から南東へと目を移すとその坂はさらに急になってしまいます。

これは金沢の中心部に向かって浅野川と犀川という2つの河川が流れ込んでいるため形成されたものです。それぞれの河川の両岸で河岸段丘が形成されているのですが、2つの河川に挟まれた場所にも河川段丘が作り出されており、アルファベットの「W」のような断面を持つ地形となっています。

沼田

沼田の河岸段丘については日本語版ウィキペディアに「沼田の河岸段丘」という記事があるので詳しい話はそちらをご覧いただきたいのですが、日本国内で河岸段丘を説明する時に第一に出てくるほど有名なものです。

沼田市は群馬県に所在する都市で、その西部には利根川が南部には片品川という川が流れているのですが、この片品川が見事な河岸段丘を形成しており、沼田はまさに「河岸段丘に作られた都市」と読んでも過言ではない程です。詳しくは関連リンク先を参照していただきたいのですが、観光協会が河岸段丘を観察する場所の案内をしており、安全な場所から河岸段丘を愛でることも出来ます。

参考文献

  • 松倉公憲「地形学」朝倉書店、東京、2021年9月1日。ISBN 978-4-254-16077-2。 NCID BC09567566。OCLC 1268511660。国立国会図書館書誌ID:031624974 全国書誌番号:23586669。
  • 石渡明「金沢の段丘」金沢大学理学部地球学科。

関連リンク

最後に

次回のざっくりわかる堆積システムシリーズ: 河川が作るV字谷

英語名の「river terrace」、老人ホームみたいな名前していますよね。「田園調布リバーテラス」みたいな名前で多摩川近くの立川面に作られていてほしい気分がわずかにあります。

ちなみにこの記事内では「河岸段丘」という言葉を使わせていただきましたが、「河成段丘」という言葉を用いることもあります。これは河川の岸に存在していることを重視しているのか、それとも河川作用によって形成されているのかを重視しているのかといった違いがあります。とはいえ実際に存在するものはどちらの用語を使用していたとしてもほぼ同じものなので、あまり気にする必要はないと思います。

Writer

Osumi Akari