河川が作るV字谷

本当にV字みたいな断面をしている / 2022-10-16T00:00:00.000Z

侵食作用について解説した記事の中でいくつか侵食作用と強い結びつきのある地形を紹介させていただきました。その中で第一に挙げさせていただいたものとして「V字谷(ブイじこく)」というものがあります。V字谷は中学校理科の教科書ですらその名が見られるほど有名なものですが、その紹介は「河川の侵食作用によって上流にはV字谷が形成され~」といった程度で、あまり深堀りはなされていません。

というわけで今回はV字谷をざっくりと紹介しておこうかと思います。

結論

  1. 側刻と斜面プロセス
  2. 断面がV字になる
  3. V字谷≠河川にある谷

V型の断面

V字谷という名前は河道にその断面がV字であることに由来しています。しかしながらなぜV字状になるのでしょうか。

何も起こらなかった河谷の発達

もし河川が下側のみに侵食を続けていたのならば、上の図のようにただただ直角の壁が形成され、河谷の断面はカタカナの「コ」を90度右に倒したようなものになります。しかしながら河川は 下側のみに侵食しているというわけではありません河岸段丘について紹介した記事した記事の中でも触れさせていただきましたが、河川の侵食作用には下刻(かこく)と側刻(そっこく)という2つがあります。下刻とは河床を下へと侵食する作用、側刻は河岸を横へと侵食する作用といえます。つまり横へと侵食する作用が行われることで、河岸の壁は下部を少しずつ侵食されることで垂直を維持していた河岸もそれを維持できなくなります。

また、河岸が下刻によって高くなっていくことによる斜面崩壊もV字谷の形成要因として知られています。積み木で遊んだことのある人なら分かると思うのですが、積み木を垂直に高く積み上げていくと高さが上がっていくにしたがって不安定になっていきます。これと同様に侵食面からどんどん離れていくにしたがって河岸の崖の安定性は下がっていき、ある限界の高さになると崩れてしまいます。この限界の高さのことを 限界自立高さ (critical height of slope)といい、斜面がどのような岩石で出来ているのかや含まれている水分量、どれくらい風化されているのかといった要素によって変化します。

このようにして斜面が垂直から崩されることによってV字谷が形成されます。以上の2つによって斜面は徐々に崩壊していきますが、崩壊していくごとに一般に角度は緩くなっていきます。

V字谷以外の河谷

以上ざっくりと河川によって生まれるV字谷について紹介させていただきました。上の文章を読む限りV字谷は河川があればどこにでもあるように思えたかもしれません。ところで河川の侵食作用によって作り出された谷のことを 一般に「河谷(かこく)」 というのですが、なぜわざわざV字谷という言葉を使っているのでしょうか。

これはV字谷は確かに様々な場所で普遍的に形成されるものではあるものの、V字の断面以外を持つ谷が存在するためです。というわけでそのような谷の中で有名な2つを簡単に紹介しようかと思います。

V・箱・U

初めに箱状谷(はこじょうこく、de: Kastental)というものを紹介させていただきます。箱状谷というのは上で私が限界自立高さとかと色々言って否定したような形の河谷です。つまり直角やそれに近しい角度を持っている谷のことです。こうした箱状谷は側刻が進んでおり河道からある程度崖が離れているような場所であったり、火砕流による堆積物が存在していた場所であったりしたところに作り出された物です。

また「U字谷」というものがあります。これは河川というよりは氷河によって形成されるもので、氷河によってゆっくりとかつ強力に侵食された谷は断面がU字の形状をしています。

参考文献

  • 松倉公憲「地形学」朝倉書店、東京、2021年9月1日。ISBN 978-4-254-16077-2。 NCID BC09567566。OCLC 1268511660。国立国会図書館書誌ID:031624974 全国書誌番号:23586669。
  • 守屋以智雄「磐梯火山の地形発達史」『地学雑誌』第97巻4号、1988年、293-300ページ、ISSN: 1884-0884、NAID: 130001001300、DOI: 10.5026/jgeography.97.4_293

最後に

前回のざっくりわかる堆積システムシリーズ: 河岸段丘という侵食の歴史の証人

侵食作用そのものを解説した記事を執筆した時点ではあまり書くことが無いと感じていたためすぐに書き終わると思っていたのですが、思ったより書くことがあって驚いています。楽しいけど眠いので早く寝させてほしい。

Writer

Osumi Akari