谷の中にある平らなところ「谷底低地」

名前がそのまますぎてここに書くことがない / 2022-10-17T00:00:00.000Z

侵食作用によって生まれる「河谷」という言葉のイメージから、河川の上流部には平らなところが全く存在しないと考えている方も少なくはないでしょう。

しかしながら実際には谷から平地へ河川が出ていくまでの場所にも「谷底低地(valley-bottom plain)」と呼ばれる平らな場所が存在します。というわけで今回はこの谷底平地をざっくりと見ていこうかと思います。

結論

  1. 側刻の力か何かが堆積するか
  2. 見た目は似ているが特性に大きな違い

削るか積もるか

前文に書かせていただいた通り、谷の中にある平らな場所のことを一般的に「谷底低地」といいます。一般的に、です。つまり「谷底低地」と呼ばれるからといって特性は様々であるということです。

結果から先に占めさせていただきますが、谷底低地を大きく2つに分けると

  • 谷底侵食低地
  • 谷底堆積低地

の2つに分類することが出来ます。これはどのようにしてその谷の中にある平らな場所が形成されたのかによって分類されており、「谷底侵食低地」は河川の侵食作用のうち河岸を横へと削る「側刻」によって形成されるもの、「谷底堆積低地」は河谷に土砂が堆積して形成されるものです。まずはそれぞれどのようなものかを簡単に示させていただき、その後にその違いについて書いていこうかと思います。

側刻の力

詳しい話は次回の記事でさせていただくのですが、河川の侵食作用は大きく2種類に分けられ、そのうち横方向へと侵食するものを側刻もしくは側方侵食といいます。多くの河川ではV字谷が形成されますが、V字谷の中でも河川の流れるスピードが穏やかになっていったものの中には河床を下へと削る下刻作用よりも側刻の方がより際立つ場合があります。

このような場合において河岸の斜面崩壊が発生すると当然ながら斜面の角度が緩くなるほか、崩壊によって堆積した固結していないものはやがて河川の流れによって侵食・運搬されることから平常時の 河道と河岸との距離を少しずつ離してしまう といったことが起こります。未固結なものは侵食に当然ながら弱いため、側刻の方がより際立っているような河川ではこのようなことの結果谷底の面積が広がっていきます。そのようにして形成されていったのが「谷底侵食低地」です。

堆積の力

これに対して、V字谷といった河谷において、水量が少なくなったり供給される土砂の量が多くなったりすると侵食作用が弱まります。河川の三作用である「侵食・運搬・堆積」はそのエリアにおいて特定のものが働いているというよりも、そのエリアで三作用の内1つが卓越しているといったイメージです。侵食が弱まれば当然残りの2つが相対的に強くなり、その場所のさらに上流から堆積する土砂が供給されどんどん谷が埋まっていきます。これが「谷底堆積低地」です。

かつては埋没谷というそれなりにそのままなネーミングで呼ばれていました。

What is different?

以上「谷底低地」と呼ばれるもの2種類を概観してきました。一旦出来上がってしまえば非常に似ている2つです。しかしわざわざ別の名前で呼ばれ昔にさかのぼれば谷底堆積低地が「埋没谷」という関係なさそうな名称であったことから察した方がいらっしゃると思いますが、結構違う点があります。まずは上で文章で説明した谷底低地の形成過程をクソ画力で表現したものをご覧ください。

谷底低地2種類の比較

一番目に付く点といえば、谷底侵食低地は新たに堆積したものが無いのに対して、谷底堆積低地には新たに堆積したものがあるという点です。つまり土木工学的な面から見ると谷底侵食低地は地盤に近く建築物の基盤を作る際には余計な物が少ないといえ、谷底堆積低地はその反対といえます。そのため谷底堆積低地は堆積したものによってその地盤の特性が大きく変化します。

また地形輪廻に近しい発想を用いれば、谷底侵食低地においては谷底堆積低地に比較して侵食されたのが「若い」ので、V字谷の特徴に谷底堆積低地と比較して近いといえます。そのため斜面崩壊の危険性が(あくまで一般論といえますが)谷底堆積低地に比べて高いと考えることが出来なくはありません。

最後に

「谷底低地」というワードは見た目が似ているだけで形成要因を考えないと特性を見誤ってしまうというお話でした。河川の近くに家を建てたいというロマンがある方の役に立てば幸いです。

Writer

Osumi Akari