スカンジナビア半島で有名なものは何でしょうか。ノルウェー・スウェーデン・フィンランドが位置するこの半島は北欧神話の舞台である他、オシャレなデザインや(実力以上に持ち上げられがちな)高負担高福祉国家があることで知られているかと思います。しかしながらある程度地学や地理をかじっている人にとってのスカンジナビア半島は、アイソスタシーとフィヨルドでしょう。
というわけでアイソスタシーは以前紹介させていただいたことから、今回はフィヨルドについてざっくり説明していこうかと思います。
結論
- 氷河が作った谷がある
- 海水が入り込む
- 場所によってはクソデカに
谷が溺れる
溺れ谷という言葉があります。谷が海水面の上昇や地盤の沈降によってその一部もしくは全部が海水に浸かることがあり、このようになった状態の元谷のことを指す言葉です。地理院地図の「自分で作る色別標高図」を用いて、簡易的に日本で海面が上昇したらどうなるのかを体感することが出来るので、もし海面が上昇したら生まれるかもしれない溺れ谷がどのような場所にあるのかを見てもいいかもしれません。
さてこの溺れ谷というのもいくつかに分類することが出来ます。分類方法として様々なものが考えられますが、その1つに沈む前の谷がどのようなものであったのかというものがあります。といっても谷が出来る方法の主たるものが河川によるものと氷河によるものの2種類しかないせいで呼び方は2種類しかないのですが。列挙(?)すると以下のようになります。
つまりこの記事のメインテーマである**フィヨルドというものは「氷食谷が沈んでできた地形」**ということが出来ます。ではわざわざ分類してみたのでリアス海岸とフィヨルドにはどのような違いがあるのかを考えていこうと思います。といってもリアス海岸とフィヨルドの違いはV字谷とU字谷の違い・河川と氷河の違いがほぼそのまま反映されるとしても過言ではありません。というわけでV字谷とU字谷の違いをざっくり見ていきましょう。
まず初めに考えられることとして「V字谷」・「U字谷」の名前の由来になっている通り谷の断面形が異なることが挙げられます。上の概要を示した図において、V字谷は一番左、U字谷は一番右のような断面をしています。リアス海岸とフィヨルドはそれぞれこの谷が海水によってある程度埋まっている状況なので頭の中で多少谷に水を注いでみると、それがそのままリアス海岸とフィヨルドの断面図となるといえます。するとV字谷とU字谷、すなわちリアス海岸とフィヨルドを比較してみると、フィヨルドの方が急峻な崖となっていることが分かるかと思います。もちろん現実には様々な物がありますので一概に言える物ではないのですが、フィヨルドは崖が急になっている傾向があると考えていただいても大きな問題になることは無いかと思います。
2つ目に立地の違いが挙げられます。当たり前なのですが、リアス海岸はV字谷を形成するような河川がある場所に、フィヨルドはU字谷を形成するような場所にしか作り出されません。海水面の変動はプレートテクトニクスによる大陸移動と比較すれば明らかに時間スケールが小さなもので頻繁に起きます。そのためリアス海岸はスペインやポルトガルが位置するイベリア半島・日本といった場所に、フィヨルドはスカンジナビア半島やカナダ、南半球ではパタゴニアといった場所に存在します。
また「過下刻」という現象が氷河では起きやすいことも大きな違いでしょう。これは幅が狭くかつ氷の量が多い氷河で発生しやすい現象で、名前の通り下向きの侵食作用である下刻が過剰に起こってしまうことを指します。この過剰に起こってしまうというのは河岸段丘の記事で説明させていただいた「侵食基準面」を下回るという意味です。通常の侵食では侵食基準面を下回ると侵食が卓越するという状況は発生しないのですが、氷河における氷食作用においては、
- 氷を供給する涵養域(河川でいうなら集水域)が広く
- 山地のため流れられる場所が狭い
ということが発生し、氷河をシステムとして見た場合極めて低速であるのも相まって侵食基準面を下回ったとしても侵食作用の卓越がストップしないこともあり過下刻が起こります。この過下刻が発生することによってフィヨルドの深さが極めて深くなるということもあります。
最後に
地形としてのフィヨルドはスカンジナビア半島だけに存在するものではありませんが、明らかにフィヨルドの知名度が前文をスカンジナビア色に染めてしまいました。反省はしていません。
最後になりますが、この記事にたどり着いた方の一部には美しいフィヨルドをいっぱい見たいという方がいらっしゃるかもしれません。そんな方にはベルゲン急行7時間の旅を収めたノルウェー国立放送の「Bergensbanen minutt for minutt」という番組をおすすめします。これはノルウェーの西海岸にあるベルゲンという町と首都オスロを結ぶ鉄道の旅7時間をほぼそのまま収めた映像で、特に初めの方はフィヨルドを横に見ながら走る部分も多いので、のんびりフィヨルドを見て旅気分が味わえるかもしれません。