河川や風の中において発生する運搬作用。一度運搬され始めるとどのように運ばれていくのかについて気にされたことはありますでしょうか。意外と気にされていない方が多いと思われます。少なくとも私はそう思っていた頃もありました。
しかしながら単純に流体の中で運ばれている「だけ」のように見える運搬作用も、よくよく見てみるとバラエティー豊かなものです。この記事では「転動・滑動・跳動」という代表的な3種類の運搬のされ方についてざっくりと触れていこうかと思います。
結論
- 掃流の中の運搬のされ方
- 動かされることには変わりない
- どのような形で動かされるのかが異なる
掃流の中で
「河床の粒子が動き出すエントレインメント」という記事において私は「掃流力」という概念を紹介させていただきました。簡単にここでも触れさせていただくと、掃流力というのは水路の壁に対するせん断力で流体が持つもののことです。この力によって河床等の砕屑物が運ばれる運搬作用が始まります。
さてこの「掃流力」という名前はどこから来ているのでしょうか。日本語的には「掃流-力」という風に解釈することが出来る通り、「掃流の力」というところからこの名称が来ていると言えます。ではこの「掃流」とは何でしょうか。
掃流というのはいかにも流れに関する名前に聞こえ実際にそれに近い使われ方こそしますが、流れそのものを指すことはあまりありません。どちらかといえば運搬作用の一部・運搬のされ方といったものを説明するために存在する言葉といった方がいいでしょう。具体的に掃流(traction and saltation)とは河床の近くを動くことを指します。これは基本的に粒径で礫・砂・泥で分類される砕屑物の内礫や砂といった大きな粒径を持つ粒子が運搬される時に考えられる様態です。またこれによって運搬されるもののことを、一般に掃流土砂もしくはベッドロード(bed load)といいます。若干ややこしいですが、
- 動くことそれ自体: 掃流
- 動かさられるもの: ベッドロード
と考えておくといいでしょう。少なくとも「かけられる数とかける数」といった(個人的に嫌いではないですが)概念よりは分かりやすいかと思います。
これに対して「浮流」という言葉では砕屑物が水の中で浮かんで運ぶ様態を、「溶流」という言葉では水に溶解した成分が運ばれるといった様態を指します。これらについては今回の記事では触れないものの、重要な考え方ですので少なくとも知識として知っておくことをおすすめします。
転滑跳
では具体的に掃流の様態を詳しく見てみましょう。といっても以下の図に凝縮されてしまっているのであまり話すことはありません。
上に示させていただいた図においては左から右へと流体が流れる流れの中において、砕屑物がベッドロードとして運搬されている様子を簡単に示させていただきました。ここに書いてある通り掃流には大きく3種類の様態があり、それぞれ転動(rolling)・滑動(sliding)・跳動(saltation)といいます。それぞれの特性についてざっくりと見ていきましょう。
転動
転動は、というより掃流に関係している言葉は割と素直な命名をされており、それぞれ名前の通りの動きです。文字通りゴロゴロ流体に押される大玉のように転がっています。
滑動
滑動は河床もしくはその極めて近くを「流体に押される」ように運搬されるような様態のことを示しています。先程の転動と合わせて英語ではtractionと呼んでいます。
跳動
跳動は文字通り河床の近くを飛び跳ねるようにして運搬されることを示す用語です。躍動であったり跳躍であったりと呼ばれることがあります。飛び跳ねるといっても当然ながら砕屑物にばねが付いているわけではありませんので、エントレインメントされたものが持ち上げられ流れによるもののやっぱり自重によって河床の近辺へと落ちていくといったことを繰り返す、というイメージが実態に近いでしょう。
参考文献
- 松倉公憲「地形学」朝倉書店、東京、2021年9月1日。ISBN 978-4-254-16077-2。 NCID BC09567566。OCLC 1268511660。国立国会図書館書誌ID:031624974 全国書誌番号:23586669。
最後に
前回のざっくりわかる堆積システムシリーズ: 河床を同じサイズの砕屑物ばかりにする選択的運搬作用
というわけで掃流と呼ばれるものについてざっくりと説明させていただきました。
冒頭で「代表的な3種類の運搬のされ方」を説明するといっていますが、実は運搬のされ方は他にも多数あることに留意していただきたいです。流れには浮流が存在するように、砕屑物の運搬のされ方としても「浮動」と呼ばれるものが存在します。これについては次回で解説しようかと思っておりますので、この記事と合わせて参照していただければ幸いです。