ここまで運搬作用の概要とその代表的な様式である「掃流」・「浮流」・「溶流」についてざっくりと見ていきました。これらは運搬作用の内いわば「始まり」について述べたものです。エントレインメントされたものはずっと運搬されるというわけではないので、 やがては「終わり」が来ます。その「終わり」を説明する前にはやはりその途中経過を説明する必要もまたあるでしょう。
というわけで今回は運搬作用の力を測る指標として使えなくもない「ストリームパワー」について大まかに見ていきたいと思います。
結論
- 失われる河川のエネルギー
- 単位長さ当たりで考える
運搬の量
私は大昔「ざっくりわかる侵食作用」という記事において、アグラデーション・デグラデーションという概念を紹介させていただきました。大まかに言えば河川をとある区間で区切った際に土砂が増加しているか減少しているかを考えることで、河川の三作用を個別の作用別に考えること無しに堆積システムへの理解を深めることが可能であるといったものです。しかしこうやって口で言う分には簡単なものの実際に土砂の増減を観測することは極めて難しいものです。そのため様々な観測しやすい指標を用いて(といいつつ当人が堆積システム解析を意識していたかは微妙なものはありますが)これらを観測することが試みられ続けてきました。
例えば運搬作用の記事で説明させていただいたシールズダイアグラムに用いられている無次元掃流力は単位面積当たりの土砂の変化量を見ることが可能であり、河床の変化を見ることがそれほど広い範囲に応用できるものではないものの可能となります。しかしながらこれで満足してしまう人はそう多くありません。せめてもうちょっと広い範囲で土砂の動きを求められないか…。このように考えた人々はストリームパワーという概念(よくΩというギリシャ文字で表記される)を生み出すに至りました。
このストリームパワーを一言で表すなら「とある区間で失われた河川のエネルギー」というものです。パワーと言っているのに失われたエネルギーのことを考えるのは若干イメージしづらいものでしょう。しかしながら運搬される砕屑物視点になってみてください。河川のエネルギーが失われることで初めて砕屑物は運搬され始めます。失われたエネルギーを考えることでどれくらいの土砂が流出/流入したかを考えることが可能となり、システムとしての河川を考える上で大変役に立つものでしょう。
ユニットストリームパワーが大きな場所においては流出量の方が多いデグラデーションが、反対に小さな場所では流入量の方が多いアグラデーションが発生するといえ、当たり前といえば当たり前なのですが、このユニットストリームパワーを見ることである程度の区間における河川の表情を見ることが出来ます。
単位当たり
では、とある区間で失われた河川のエネルギーを求めるためにはどうすればいいでしょうか。ものすごく単純に考えると「水の密度 * 重力加速度 * 水深 * 幅 * 長さ * 区間の高さの差」で求めることが出来そうです。しかしながらこれを計算するのは若干面倒なので少し簡単にして見ましょう。大まかには以下のことを考えます。
- 単位長さ当たりのことを考えるので、長さを1として見ること
- 流量は水深と幅と長さで求められうること
- 水の重力方向への移動は流速と勾配で表すこと
その結果、ストリームパワーは「水の密度 * 重力加速度 * 勾配 * 流量」で求められます。こうすることで河川の特定の区間で失われたエネルギーを考えることが出来ます。またこれを河川の幅で割ってしまうことによって河川の断面積当たりのストリームパワーを求めることも出来ます。
そうしたものを多くの場合は小文字のωで表わされるユニットストリームパワーと呼び、ストリームパワーの元の定義から考えると同じ断面積の河川においても深ければ深いほどユニットストリームパワーは大きくなり、断面積当たりの侵食・運搬能力が大きくなることが分かるかと思います。ちなみにこのユニットストリームパワーは掃流力に流速をかけたものと同じとみなすことも出来るということを付記しておきます。
最後に
数式導入に失敗しているので数式を避けて記事を書いたのですが、めちゃくちゃつらいことが分かりました。このブログで使用している「Miller」の次期アップデートには、LaTeXパーサーの導入を入れ込みたいことを検討し始めようかと思います。