三角州には様々な形状があり、これまで円弧状三角州と鳥趾状三角州を紹介させていただきました。今回は代表的な三角州の形状のうちあまり影の濃くない尖状三角州(カスプ状三角州)についてざっくりと紹介していこうと思います。
結論
- ペン先のように河口が突き出している
- 波のエネルギーが強い
尖状三角州
三角州の形状を決める要因として様々なものがありますが、河川が運搬してくる砕屑物・波の力・潮汐の力のバランスがどのようになっているかという視点で見ることが出来ることがあります。下に示した図は代表的な三角州の形状を示しています。
このうち最も右にあるものが今回紹介させていただく尖状三角州です。画像を見る限りは最も左にある円弧状三角州と何が違うのかよく分からないかもしれません。円弧状三角州は
- 砕屑物の量: 多い
- 波による侵食: 弱い
といった環境で形成されます。ところが尖状三角州は
- 砕屑物の量: それなり
- 波による侵食: 強い
といった環境で形成されます。こうなると三角州が作り出されるというよりは作られた三角州がどんどん削られていき、新しく三角州が作り出されている河川付近の部分だけがペン先のように尖った形状になっていると言えます。このような形状の三角州を尖状三角州と呼びます。「名が体を表す」という言葉にぴったりなネーミングだと思っています。
ちなみに尖状三角州のことをカスプ状三角州と呼ぶ場合があります。カスプ(cusp)というのは「尖っている場所」・「先端」という意味を持つ英単語です。つまり「カスプ状三角州」というのは「尖っている三角州」という意味なので、尖状三角州と全く同じ意味を持ちます。英語で尖状三角州のことを「cuspate delta」というのでこれのために「カスプ状三角州」という言葉が用いられると考えられます。個人的にはカスプという1回は「カプス」と書き間違えるような聞きなれない言葉で覚えるよりも、「尖状」という分かりやすい言葉で覚えたほうがいいと思います。
実例
代表的な尖状三角州としてローマを流れるテヴェレ川の河口にある三角州が挙げられます。
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この河川はイタリアで3番目に長い河川でありローマ市内を流れる主要な河川ではあるものの、イタリアは半島であるため河川の長さとしてはそこまで長くなく、かつ大量の砕屑物が運搬されてくるようにはなりません。そのため地中海の海流や波の力がそこまで強いものではありませんが、テヴェレ川が形成する三角州は侵食されていってしまいます。そのため上にあるような形状の三角州が形成されます。
最後に
前回のざっくりわかる堆積システムシリーズ: 鳥のつま先みたいな鳥趾状三角州
カスプと聞いて「尖っているもの」という意味を理解できる人がどれくらいいるのか分からないので基本的に「尖状三角州」という表記を採用してみました。カスプと聞いて形状が思い浮かぶ人、その辺にいないと思うんだけどな。