前回の記事においては「海底にも地形がある」ということを示させていただきました。というわけでここから数回に分けて海底地形をいくつか紹介していこうかと思います。初めに海底にある谷について紹介していこうかと思います。
結論
- 海底にも谷はある
- 混濁流によることもある
海底谷
かつて私は地形輪廻に関する記事の中で「水の上にある時は削られ、水の下にある時は積もる。」という表現をさせていただきました。これは陸を中心とした堆積システムを理解する上では重要なことで、一般に堆積のことを考える際にはこれで十分であることが極めて多いです。しかしながら「水の下にある時でも削られる」ということは存在します。その事例として代表的なのが海底にある谷、「海底谷」です。
谷が出来る要因としてはV字谷の解説記事辺りを参照していただきたいのですが、何らかしらの侵食されるものが存在しそれに向かって侵食作用が働くというものがあります。では海中においてどのようなものが侵食作用を生み出すのでしょうか。
当然ながら海へと流れ込む河川が要因となっているものというものも存在します。しかしながら河川から流れ込んだといってもその水体の侵食力には限界があり、海底谷を作るような力を持っているのであれば、陸域の侵食が激しいものとなっているでしょう。そのためメジャーな要因であると言えるものではありません。メジャーな要因として挙げられるものに「混濁流」と呼ばれるものがあります。これは海底における斜面崩壊や、陸域から流れ込む海水よりも比重が大きい流れ(ハイパーピクナル流)というものの総称です。
「水の下にある時は積もる」、すなわち海底には砕屑物がどんどん堆積していきますが、それが不安定な構造である場合があります。そのため限界に達してしまうと斜面崩壊が発生してしまうことがあり、これに伴って比重の大きい流れが海中で発生することがあります。また陸域において洪水が発生した場合海へと流れ込む水流は通常よりも比重が大きくかつストリームパワーが大きいものとなっています。そのような流れが海底を侵食し、海底にも谷を形成していきます。
富山湾
海底谷は割と色々なところにあるので実例としてどこを紹介しようか迷いましたが、取り敢えず富山湾にある約750キロメートルの海底谷を紹介してみようかと思います。富山湾というのは名前の通り富山県に面する湾で、常願寺川や「これは川ではない。滝だ。」という言葉で知られている早月川などの急流が流れ込んでいます。そうした流れは大量の砕屑物と共に海へと駆け込みます。
基本的には海に流れ込むと削られることは少なくただ降り積もるのみ…なのですが、これは必ずしも正確な表現ではないため、海底で発生する混濁流によって上記の地図に示されるような深くかつ長い谷が形成されます。富山湾に端を発する谷は日本国内に存在する海底谷の中ではトップクラスに長いもので、日本海の中央部付近に存在する大和堆周辺まで伸びています。
ちなみに日本には駿河湾や東京湾にも海底谷が存在することが知られており、 (私はあまり興味ないので知りませんが) 生態的にも面白いとされています。もし興味があれば調べてみてもいいかもしれません。
関連リンク
- 「海底谷」日本水路協会海洋情報研究センター。
- 岡村行信、佐竹健治、竹内章「富山深海海底谷最下流部の海底地形」『歴史地震』第18巻、2002年、221-225ページ、J-GLOBAL ID: 200902155250598020、NAID: 40005822208。
- R1「新潟~山形~富山の、3D海底地形図 (シリーズ20)」2013年9月16日。
最後に
「谷」という言葉を聞いた際に多くの方は陸上にあるV字谷を想像されたかと思いますが、それとは一味も二味も違う海底谷の世界を大まかに紹介させていただきました。私があまり詳しくないのでざっくりとしたものとなってしまいましたが、そこにあるロマンと魅力を感じていただけたのならば幸いです。次の記事では海底扇状地について説明させていただいているので、そちらも併せてご覧ください。