「混濁流(turbidity current)」という言葉をご存じでしょうか。ご存じでなければこのページにたどり着いてはいないかと思うので知っている前提で話を進めるのですが、要するに砕屑物と水が混ざり合って海底の斜面を下る流れのことです。あまり説明になっていないかと思うので、ざっくりと説明していこうかと思います。
結論
- 砕屑物が海底で作る流れ
- 海底における土砂崩れのようなもの
海底砕屑物
まず初めに海底には砕屑物が存在するという話をしておきましょう。意外かもしれませんが海底には砕屑物が存在しています。まあ地球にはその中心部へと向かう重力が存在しており、海底は私たちが住んでいるような場所よりも高度が低いことからそこまで違和感がないかもしれません。
注目するべきはその砕屑物の供給源が大きく分けて2つ存在するということです。1つ目は海洋中に存在している生物を主としたもの、2つ目は河川などから供給されるものです。前者の内因的な堆積物のことは「石灰岩」であったり「チャート」であったりする文脈でよく見るもので、海底の堆積物を考える際には極めて重要なことは間違いありませんが、この記事の主題である混濁流にはあまり関係が無いので飛ばさせていただきます。後者の外因的な河川から供給されるものは「陸源堆積物」と呼ばれ、今回紹介する混濁流を語る上では欠かせないものとなります。
混濁流
「混濁流」というのは陸源砕屑物を主とした海底に堆積する砕屑物と水とが混合して流れ下るものです。そういってもあまりイメージが湧かないと思うので、参考となる動画を見てみましょう。
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動画内においては細長い水槽内に傾斜をつけた上でその傾斜上に土砂を配置し、その土砂を重力に従って自由に動かせるようにすることによって水槽内で混濁流を発生させています。特徴的なところとしては海底に最も近いところが流れの先頭となっており、重力方向で見た際の上部はむしろ後ろの方に持ってかれているような部分が見られるという点が一番分かりやすいでしょうか。これは陸上とは異なり水中で発生することにより水の抵抗を強く受けることに拠ります。反対に言えば海底に近しい部分が最も混濁流の「先頭」となります。
しかしながら水の抵抗を強く受ける、と書きましたがこの混濁流には多分に水が含まれています。上に「砕屑物と水とが混合して流れ下るもの」と書いた通りですね。混濁流というのは水を多量に含んでいるというのもまた特徴的です。この特徴は流れとしてスムーズに、すなわちより分かりやすいように考えると高速に流れ下ることに寄与しています。
水と比較して陸源堆積物の密度は一般に大きいため、陸源砕屑物がものすごく大量に含まれていなくても混濁流が起こるのに十分な密度差(混濁流の発生要因の1つは密度差です)が生まれるためです。またこの砕屑物の密度の大きさというのは混濁流が長い距離を流れ下ることにも関連していると言えます。砕屑物の密度が大きいことにより、流れ下る中で海底に存在していた砕屑物を巻き上げ、それを駆動力とすることも出来るからです。
また上の動画ではかなり用意周到な準備をしている、言い換えれば自然ではありえないような好条件をわざわざ用意していると言えます。自然界に都合のいい仕切り板はありませんし、ちょうどいい傾斜もあるとは限りません。ここから考えられることとして、混濁流というものは河川の流れのように常に起きているものではない、イベント的なものであるということがあります。答えを言ってしまえばこれは事実で、混濁流の説明によく使われる「海底地すべり」というのも、年がら年中365日24時間連続して起こっているものではありません。例えば参考文献の3番目に挙げていただいた例では、2011年の東北地方太平洋沖地震に起因する混濁流の発生について記載されています。このように地震というものによって初めて起こるようなものであるということは頭の隅に入れておくと、混濁流についての理解を深めることが出来るのではないでしょうか。
しかしある程度長いスパンであれば割としょっちゅう発生しているものと考えることもまた出来ます。このような流れによって次の記事で説明するタービダイトが作り出されていきます。
以上大まかな混濁流のイメージは掴めましたでしょうか。最後になりますが実物の混濁流の中を無人潜水艇で観測した際の動画もありますので、こちらも併せて見ると理解が深まるかもしれません。
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関連リンク
- 「混濁流」日本堆積学会、堆積学Web用語集。
- Sumner, E.J., Paull, C.K. "Swept away by a turbidity current in Mendocino submarine canyon, California" Geophysical Research Letters 41(21), pp. 7611-7618, DOI: 10.1002/2014GL061863.
- Kazuno Arai, Hajime Naruse, Ryo Miura, Kiichiro Kawamura, Ryota Hino, Yoshihiro Ito, Daisuke Inazu, Miwa Yokokawa, Norihiro Izumi, Masafumi Murayama, Takafumi Kasaya. "Tsunami-generated turbidity current of the 2011 Tohoku-Oki earthquake" Geology, 41(11), 1195–1198, 2013 DOI: 10.1130/G34777.1.
最後に
以上簡単に混濁流について紹介させていただきました。混濁流。次の記事ではこの混濁流によって作り出された堆積物である「タービダイト」について説明させていただいているので、そちらも併せて参照していただければ幸いです。